殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
何故翔が今日言いに来たのか?
答えは一つだった。
東大受験に向けて動き出した翼を潰すためだった。
翔も不思議だったはずだ。
自分には贅沢させるのに、翼は粗末な物ばかり。
どうしてなのか考えた。
そして、ある方法を思い付く。
母の愛を確かめる方法を。
それがあの柿の実事件の元だった。
あれは翔の仕掛けた、翼を軽蔑する存在だと確かめるための罠だったのだ。
翼が母親に愛してもらいたくて葛藤していること。
抱き締めてもらいたくて勉強を頑張っていること。
全部知った上で……。
初恋の相手が翼に贈ったオルゴールの敵を取ったのだ。
祓いせ、何て単純な物では片付かない。
母親を取られなくするために……。
翔には翔の翼に対するプライドがあったようだ。
だから翔は調べたのだ。
そして知ったのだ。
母親の薫と同時期に、薫の妹の香も妊娠していた事実を。
翼が香の子供だったら……
全て辻褄が合う。
母の溺愛と卑下。
その全ての源が……
翼の母にあることを。
『香の子供が産まれていたら』
田中恵の病室での一言がよみがえる。
子供は産まれていた。
それは自分だった。
それでは自分が香の子供なのか?
でも祖父は、薫のことを香と言った。
祖父の目には香だったはずだ。
自分の本当の母親は、薫なのか? 香なのか?
思考回路の停止したまま、翼は必至に答えを導き出そうとしていた。
勉強が手に着かない。
そわそわと動き回る。
翼の異変に陽子が気付き、一息入れようとコーヒーを持ってきた。
陽子のコーヒーはアメリカンではなくなっていた。
だんだんと味に慣れて来た翼のために、濃くしてくれていた。
父親の経営しているカフェで、本物のブルーマウンテンを飲ませてやりたい。
孝を快く思っていない陽子だったが、仲違いしたままではいけないと心を痛めていたのだった。
答えは一つだった。
東大受験に向けて動き出した翼を潰すためだった。
翔も不思議だったはずだ。
自分には贅沢させるのに、翼は粗末な物ばかり。
どうしてなのか考えた。
そして、ある方法を思い付く。
母の愛を確かめる方法を。
それがあの柿の実事件の元だった。
あれは翔の仕掛けた、翼を軽蔑する存在だと確かめるための罠だったのだ。
翼が母親に愛してもらいたくて葛藤していること。
抱き締めてもらいたくて勉強を頑張っていること。
全部知った上で……。
初恋の相手が翼に贈ったオルゴールの敵を取ったのだ。
祓いせ、何て単純な物では片付かない。
母親を取られなくするために……。
翔には翔の翼に対するプライドがあったようだ。
だから翔は調べたのだ。
そして知ったのだ。
母親の薫と同時期に、薫の妹の香も妊娠していた事実を。
翼が香の子供だったら……
全て辻褄が合う。
母の溺愛と卑下。
その全ての源が……
翼の母にあることを。
『香の子供が産まれていたら』
田中恵の病室での一言がよみがえる。
子供は産まれていた。
それは自分だった。
それでは自分が香の子供なのか?
でも祖父は、薫のことを香と言った。
祖父の目には香だったはずだ。
自分の本当の母親は、薫なのか? 香なのか?
思考回路の停止したまま、翼は必至に答えを導き出そうとしていた。
勉強が手に着かない。
そわそわと動き回る。
翼の異変に陽子が気付き、一息入れようとコーヒーを持ってきた。
陽子のコーヒーはアメリカンではなくなっていた。
だんだんと味に慣れて来た翼のために、濃くしてくれていた。
父親の経営しているカフェで、本物のブルーマウンテンを飲ませてやりたい。
孝を快く思っていない陽子だったが、仲違いしたままではいけないと心を痛めていたのだった。