そう思うのに、躰が ちっとも動かない。

祐貴さんは恐ろしい笑顔を浮かべたまま、私に近付いて来た。

私は思わず目を瞑る。

何か されると覚悟したのに、何も起きない。

僅かに目を開けて、私は驚いた。

私と祐貴さんとの間に、曽根倉君が、真っ直ぐ立っていた。

「何だ てめェは。」

「椎名の友達だ。だから、椎名の大事なもんは、守ってやりたいんだ。」

「はっ。」

祐貴さんは鼻で笑うと、曽根倉君に殴り掛かった。

曽根倉君は器用に躱すが、私を後ろに庇っている為、上手く動けないようだ。

その時、舞ちゃんと葵ちゃんが、私の腕を掴んだ。

「海崎、動ける!?一端 此処から離れよう!」

「でも、翔織が……。」

翔織は頭を押さえて壁に凭れている。

さっき された頭突きで、軽い脳震盪を起こしているのかも知れない。

その時。

「げっ。」

曽根倉君の焦ったような声が聞こえて、彼の顔から一筋、血が垂れた。

曽根倉君の頬に、小さな傷が付いている。

そして。

祐貴さんは、カッターを握っていた。

< 167 / 189 >

この作品をシェア

pagetop