闇
そう思うのに、躰が ちっとも動かない。
祐貴さんは恐ろしい笑顔を浮かべたまま、私に近付いて来た。
私は思わず目を瞑る。
何か されると覚悟したのに、何も起きない。
僅かに目を開けて、私は驚いた。
私と祐貴さんとの間に、曽根倉君が、真っ直ぐ立っていた。
「何だ てめェは。」
「椎名の友達だ。だから、椎名の大事なもんは、守ってやりたいんだ。」
「はっ。」
祐貴さんは鼻で笑うと、曽根倉君に殴り掛かった。
曽根倉君は器用に躱すが、私を後ろに庇っている為、上手く動けないようだ。
その時、舞ちゃんと葵ちゃんが、私の腕を掴んだ。
「海崎、動ける!?一端 此処から離れよう!」
「でも、翔織が……。」
翔織は頭を押さえて壁に凭れている。
さっき された頭突きで、軽い脳震盪を起こしているのかも知れない。
その時。
「げっ。」
曽根倉君の焦ったような声が聞こえて、彼の顔から一筋、血が垂れた。
曽根倉君の頬に、小さな傷が付いている。
そして。
祐貴さんは、カッターを握っていた。