溺愛トレード
彼氏は、御曹司。
────何が悲しくて、自分の彼氏が自分の友達を単車の後ろに乗せて、夜の街へと走り出す後ろ姿を見送らなきゃならないんだろう。
徹平の、馬鹿野郎。裏切り者。
徹平なら「俺の彼女は乃亜(のあ)だけだから」なんて言ってくれるかと思ったのに…………
「行っちゃいましたね」
しかも!!
「はい……行っちゃいましたね」
実乃璃は徹平を連れさらう交換条件の男をさっそく呼び出してきた。
二人の姿を唖然とした顔で見送る長身の男。
スマートな容姿、抜群に甘いマスク、滲み出ている金持ちオーラ。この男が、実乃璃の婚約者だ。
「あ、申し遅れました。自己紹介がまだでしたね」
男ははっと我にかえるとスーツのポケットから名刺ケースを取り出し、そこから一枚を私に手渡した。
触っただけでもわかる。厚みと滑らかな感触……この名刺は銭がかかってる。
私は財布から、自分のパソコンからプリントアウトしたペラペラの名刺を彼に渡す。
「アン・カイエの方でしたか!」
彼は途端に表情を明るくさせたが、私は彼の名刺に立ちくらみがした。
クラウンリテーリング株式会社
代表取締役 副社長 瀧澤豊