溺愛トレード
クラウンリテーリング社から。
────長いリムジンの最後尾の座席。
「あの……こんなに椅子が長いのに、密着しなくてもよくないですか?」
瀧澤さんは、どうして? と首を傾げた。だめだ、密着することで自分がどれだけ女を惑わせる存在なのかわかっちゃいない。
スモークが貼られた窓から外の景色を眺める。今のBGMは、ドナドナが一番しっくりくると思う。
ある晴れた昼下がり、市場へ続く道。ドナドナドーナードーナー売られてゆくよー。
「乃亜、さっきから何を口ずさんでいるんだい?」
「いえ、なんでもないです」
「そうか。気になることがあれば何でも言ってくれ。できるだけ君に好かれるように努力する」
好かれるように努力してくれる気があるなら、こんなことするなっての。
だけど、邪気のない瀧澤さんの笑顔に、そんなこと言えない、と窓の方にため息をつくのが精一杯だ。
実乃璃もそうだけど、悪気はないんだ。
瀧澤さんは、実乃璃が好きで、私にも認めてもらいたいから精一杯頑張っているだけだ。
金銭感覚とかその他諸々が、少し逝かれてるから、こんな面倒くさい事態になっちゃうだけで、本人たちに悪気はない。
そう思い込まないとやっていけない。