溺愛トレード
「はやく来ないかなぁー、実乃璃ちゃん」
徹平は落ち着きなく、擦り切れたダメージジーンズの膝を隠すように足を組んだ。
だけど、履いていたスニーカーもかなりのダメージを受けていて、慌てて足を組むのをやめて直立姿勢に戻った。
ホテルマンがさっきからこっちを気にしている。高級ラウンジにそぐわない庶民が二人、ふっかふかのソファーで何をするわけでもなく座っているのだから、そりゃ心配だろう。他のお客様からのクレームが来るかもしれない。
あっちはプロフェッショナルだ。客なんて一目みれば、この高級感に馴染んでいるか、馴染めていないかを見抜いてくる。
だけど、どうせそれも実乃璃がやってくると私たちは庶民だけど高級ラウンジにいてもいい存在に格上げされてしまうのだから心配はいらない。
「文ちゃんごめんね、遅くなりました。靴をどれにしようか三十分も悩んじゃったの」