溺愛トレード
どうやら実乃璃は、夜遊びに未練があって結婚を躊躇っているわけではないらしい。(とりあえず今は)
「あのね実乃璃。それは実乃璃がわからなくて当たり前のことなの。
徹平は私が好きになった男なんだから、実乃璃は好きにならなくてもいいの。人を好きになるって事は、バーキンやオープンカーを買うこととは全然違うことなんだってば」
徹平は、私の胸に顔を埋めて「乃亜、ありがと」と震えた声をだす。柔らかい髪を、よしよし、と撫でると腰に腕を回してきた。
徹平の甘えたい時の癖だ。こうしていると落ち着くらしくて、たまにこのまま寝ちゃうこともある。
実乃璃は、はあ、とティーカップにため息を吹きかけてマカロンを摘まんで口の中にいれた。
そして冷たい秋風で落ちて散っていく葉のような哀愁で、目にうっすらと涙をためた。