溺愛トレード

 遅刻してきても実乃璃は、優雅にゆっくりとホテルのロビーを闊歩する。

 ホテルマンは、小さな小さなハンドバッグを持つためだけに隣を歩かされている。



「あら、徹平くん! 久しぶりじゃない」

「実乃璃ちゃん、久しぶり。相変わらず綺麗だね……」


 徹平は、はあ、とため息をついて、鼻の下を伸ばす。

 実乃璃はそんな徹平の熱い視線を、当然のように受けとめて、ゆるく巻いた髪をふわりと揺らす。



「今日は、最上階のフレンチを予約してあるの。行きましょう」


 実乃璃は、私と徹平の真ん中に割って入る。仕方ないので、三人並んで歩く。

 総支配人という人がやってきて、実乃璃に深々と頭を下げて、エレベーター前で待機していた。

 実乃璃といると、エレベーターを待つなんてことはない。扉を押さえて、こちらへどうぞ、と案内されるから、私は実乃璃は救急車みたいだな、とたまに思ったりする。





 
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