溺愛トレード
お好み焼き屋なおちゃん。
────「いらっしゃいませぇー」
お腹から出てくるような太い男の声なのに、語尾上がりの女子みたいな喋り方をする男。
「なおちゃん、久しぶり」
「なによ、乃亜か。徹平ちゃんは?」
「仕事終わってから来るって、ここで待ち合わせ」
「ふーん、そう。徹平ちゃんがいないあんたに用はないわ」
油と煙の匂いが壁や床にまで染み付いた店内は、ほぼ満席状態。
ここ、お好み焼き屋なおちゃんは、徹平のパチンコ友達のお姉系店長尚人さん(通称なおちゃん)が経営する小さな店だ。
なおちゃんは外見は坊主頭の厳ついお兄さんだけど、心は純白の乙女。徹平には一目惚れだったらしく、私はいつでも目の敵にされている。
頭に白いタオルを巻きつけていて、そのタオルからはいつでもアロマの香りがしている。
真っ白な割烹着の襟元には、ふりふりのレースがついている。
なおちゃんは私には興味がなくて目すら合わせてくれないくせに、今日は珍しく顔をあげてくれた。
そして、私の後ろで物珍しそうに店内を見ている長身の男に視線をロックオンして、口をあんぐりと開いて停止した。
「瀧澤さん、カウンターしかあいてないみたい。カウンターでもいいですか?」
「かまわないよ。ここが乃亜おすすめのレストランか。個性的な店だね」