溺愛トレード

 運ばれてきた食前酒を飲み、フォークを握り締めて前菜に突き刺した。

 ぼけっとしてる徹平に「実乃璃の奢りなんだから、遠慮しないでいっぱい食べて」とフォークを握らせる。


「でもね、文ちゃん。一期一会って言葉があるでしょう?」

「実乃璃にしては難しい単語知ってるじゃん。ちょっと見直したよ」


 実乃璃は気を良くして、私の左手をそっと包み込む。

 関節がボコボコしていて指輪やマニキュアなんてものに縁がない手と、ほっそりと白くてダイヤとカラフルなネイルがよく似合う手。

 全然、種類が違う。



「お父様が見初めた方だもの。興味があるから一度お会いしてみたの」


 実乃璃は長いまつげをゆっくりとまばたきさせた。


「ふーん、で?」  

「ベッドの相性は良かった」


 いきなり、寝たのかよっ!


 お口に放り込む予定のポワレが、真っ白なテーブルクロスに落っこちた。

 徹平なんてむせて、ゲホゲホしちゃってる。



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