溺愛トレード
「乃亜、ビールの泡がついてるよ」
瀧澤さんは、くくっと前髪を揺らして笑うと、私の唇に親指を這わせて、その指をぺろりと舐めた。
さっきから、カウンターの向こう側から瀧澤さんを見つめては「はあ」と乙女の恋煩いみたいなため息をついていたなおちゃんが「キィー!」と猿の鳴き声みたいな悲鳴をあげた。
女子大生風の二人も「何あれ!」「やっぱ、彼女なわけ?」と露骨に恨みがましい声をあげた。
「頑張ったご褒美は何が欲しい? ダイヤ? それとも……ルビーかな?」
「い、いりません!!」
何その、意味深なプレゼント内容は!
そんなもんもらっても困るだけだ。
「じゃあ、靴やバッグ? それとも、インテリア……あ! よかったら週末二人きりで旅行にいこ……」
「行きません!」
瀧澤さんは、まるで新種の生物を発見したかのように目を丸くした。