溺愛トレード

 嘘でしょ……?

 絶対に無理だと思っていたのに、瀧澤さんは何の迷いもなく、お好み焼きを作る手順は心得ているらしい。


「乃亜は、勘違いしているね。僕は君のことを何もわかっていないわけじゃない。そっちこそ、偏見でみていると思う」


 いつになく強い口調で言われて、驚いた。瀧澤さんがこんなことを言うなんて思わなかった。

 その言葉を放ってしまった本人は、もの凄くバツが悪そうな顔をして「ごめん」と謝った。


 よく混ぜられたお好み焼きの具は、熱した鉄板にじゅっと音をたてて丸く広げられた。



「それに僕は、たくさんの女の子とは付き合っていない。実乃璃がはじめてだから……」


「えっ?」


 はじめて?


 こんな格好いい御曹司様が女性との交際経験がないとおっしゃる。

 いやいや、まさか、それはないでしょう。きっと経験豊富だと悪い印象を与えるんじゃないかとか、そんなことを心配しているんだ。


「女性というものに興味がなかったわけじゃないけど、縁がなかった。それに僕はあまりモテなかったし」


 何をおっしゃる瀧澤さんっ!


「失礼かもしれませんけど、それは絶対にないでしょう。実乃璃がはじめてなら、それはそれで実乃璃にとっては嬉しいことだとは思いますが、実乃璃は色んな……」



 男と寝てますけどね、というセリフをビールと一緒に飲み込む。


「色んなことを考えているでしょうが、今は瀧澤さんのことを真剣に考えてますから、過去のことはお互い気にしないほうがいいかもしれませんね」





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