溺愛トレード
「なあに?」
実乃璃は、とろんとした上目遣いでマティーニのグラスを空にした。それからムキムキの腕を自分のウエストに絡ませて、分厚い胸筋に頬をすり寄せる。ミノーリィと、耳元で囁かれて嬉しそうだ。
徹平はプールサイドでブロンドの外国人女性三人に囲まれて「キュート、キュート」ともてはやされて、真っ赤な口紅を頬にべったりとつけられ「助けて、乃亜ぁ」と悲鳴をあげている。
ごめん徹平、自分で切り抜けて。
「これ、瀧澤さんから手紙預かってきたよ」
プロトコールでは低音を響かせたサウンドが、がんがんと鳴り響く。
その中で、アン・カイエの洗礼されたレターセットは少し異質だ。
瀧澤邸の真っ白な壁、磨かれたガラス窓から広がる緑の景色。桐谷さんが用意してくれた美味しすぎる紅茶に、贅沢すぎるテーブルウェアがおとぎ話のよう。
実乃璃はそれを手にすると、すぐに封をきる。
「昔、実乃璃も瀧澤さんに手紙書いたんでしょ? 瀧澤さん、それを今でも大切にしてるってさ」
実乃璃の細い指が、瀧澤さんの文字をなぞる。隣の男が実乃璃の首筋に鼻をこすりつけてきた。実乃璃はそれを「やめて……」と制止させる。