溺愛トレード
プロトコールでの大音量のサウンドがまだ耳に残っている。静かすぎる公園では、耳鳴りがする。
徹平も同じ症状なのか、それともマティーニを何杯も一気飲みさせられて少し酔っているのか、声が大きい。
「乃亜、好きだ。やっぱ女は、乃亜だけでいい」
徹平の吐き出すマティーニの甘い香り。
唇がぴったりと合わさり、それから少し大人のキスがくる。
「そんなこと言って、実乃璃を前にするとデレデレなくせに」
徹平が「ごめんなさい」と肩を落とすから、それだけで全部許したくなってしまう。
「嘘、言い過ぎた。徹平、女子に免疫ないもんね。コンビニでバイトの女の子と手がぶつかっただけで真っ赤になってるもん」
徹平が女の子に免疫がないのは、徹平の生い立ちに原因がある。
生まれてすぐにお母さんと生き別れてから、徹平は男手一つで育てられてきたらしい。女性というものを意識しだしてからは、どうやって女の人と接していいかわからず、ずっと避けてきたと言ってた。
徹平がたまにぎゅっと抱きついてくることがあるのは、母親というものを甘えてみたいという無自覚な欲求なんじゃないかと思うことがある。
中学生の時にお父さんを亡くしてからは、バイトや生活のことばかり考えていて恋愛どころじゃなかったらしい。