君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を








人間としてこの世に生まれ、今まで自分を持て余してきた。 私の両親は二人とも有名人で金持ちなので、金銭的に困ったことは一つもなかったが、その代わりに孤独があった。

広い家の中で独りきり。 家政婦は家事をしたらすぐ帰る。 私はこれが普通だと思っていたので、辛い事はなかった。


小学校、中学校と、ともに進学校に通っていて、周りは皆勉強ばかりしていたので友達は居なかった。 やがて高校に進んだが、友達どころではなかった。




とある高校の理数科に進学。 入学テストでは全教科満点だった。 驚いた事に、満点を取ったのは私だけで、無論学年で一位だった。

パンフレットには「最高の教育」と謳っていた割に授業内容は大したことなかったし、どちらかというと教科書を相手に自宅学習した方が理解できるレベルだった。


自分で云うのも変だけど、私は頭が良い上に、顔もそこそこの美人だった。 人生で二回か三回しか会ったことのない両親に感謝している点は、その二つだけかも知れない。 それ以外何も貰ってないから。


入学して3ヶ月程したある日、生まれて初めて男子から交際を申し込まれた。
テストでは私に次いで二位だった隣のクラスの奴で、顔も悪くなかった。 あまり興味は湧かなかったが、付き合ってみることにした。

だがどうだ、いくら頭が良くて顔が良くて子供は子供。 話す話題もやることも私には理解できなかった。 それどころか私の家が裕福なのを良いことに、レストランやら映画館やら、お金を払わなくてはならない場所では全て私が払った。

なんだこれ。 これがデートって云えるのか。
まるで私が奴の母親であるかのようだ。


と、交際開始から一週間で私は嫌気がさし、生まれて初めての彼氏をふった。 捨てた、と表現するほうが良かろうか。


この時まだ16歳。 この事が後にどんな事態を招くかは解らなかった。 それほど人生を知っちゃいなかった。






彼氏を捨てた翌日、学校に行ってみるとまず靴箱にあるはずの上履きが無かった。 これはまさかと思いながら事務室でスリッパを借りて教室に行くと、私の机の上に花が置いてあった。 まるで私が死んだかのように、菊の花が花瓶に挿してあった。

机の花を見ながら立ち尽くす私の周囲から、忍び笑いが聞こえてきた。 見回すと、教室中に居た生徒のおよそ七割が、私を見て反応を伺っているようだった。 のこりの三割は、居たたまれなさそうに俯いて、気配を消していた。


これはまさか、いや確実にイジメだと理解したのはその時。
悲しい、とか、ショック、というより、その時の私は何も感じていないに等しかった。 どうせ捨てた元彼氏が何か悪い噂を流して、私がイジメられるように仕向けたのだろう。 予想の範囲内だ。 驚きはしない。




とりあえず目の前の花瓶を持ち上げると、私は鞄を持ったまま教室を出た。 そのまま隣のクラスに向かい、窓辺で男友達と語らう元彼氏の姿を見つけると真っ先にそちらへ向かった。



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