君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
「いいですよ」
正直、そんな答えが返ってくるとは考えてなかった。 寧ろ逆の返答を期待していた。
だから僕は、どう反応すべきか解らなくて、彼女の体を自分から引き剥がした。 そして濡れた光を放つ両目をじっと見た。
「本気?」
「本気ですよ」
言葉通り、その表情に迷いやおどけは存在していなかった。 言い出しっぺである僕が驚いてしまった程だ。
「でも、彼氏居るよね?」
「あなたが望むなら、別れます」
「………な、んで」
どう答えがくるのかは薄々解っていたが、そう訊かずには居られなかった。 はっきりと彼女の口から聞かせて欲しかったし、何より自分が安心したいからでもある。
さっき流した涙が、冬の風に吹かれて凍りつく。 彼女の頬に光るそれも、キラキラと幻想的だった。 あえかな肩に乗せていた自分の手をその頬に当て、涙を拭ってみた。 「へへ」照れくさそうに笑う彼女は、僕を優しく包む天使そのものだ。
「あなたが好きだからです」
「……どれくらい?」
もうその一言だけで飛び上がる程嬉しいけれど、悪戯心でそう問い掛ける。
すると彼女は右手の人差し指と親指で輪を作り、
「これが地球だとするとね、」
こーんくらい、とその輪よりも大きな円を、両腕を広げて宙に描いた。
「規模でけえな」
「うん、でかいよ!」
そう無邪気に頷いて、僕の胸に抱き付いてくる。 …………キャラ変わってる。
胸の位置にある頭を撫でてやると、「ふひひっ」嬉しそうに笑い声を上げる彼女。 先ほどまでの早熟で毒舌な彼女とは、全く違う彼女だった。 そうか、これがツンデレってやつか。
「僕も好きだよ。
君の書く唄も、声も、あと毒舌な所も全部好きだよ」
彼女の旋毛に頬を付けた。 直毛というより少しくせ毛である髪の毛は、触るとフワフワと柔らかく、いい匂いがした。
やっと手に入れた、と思った。
彼女の歌声も唄も、彼女の手も足も胸の膨らみも、全て僕が手に入れた。 僕だけのものだ。
同時に僕も彼女だけのものだ。
それだけで、確かな充足感が僕の中に満ち足りた。
。