君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
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彼女は文字通り、耳まで真っ赤になった。 僕がニヤニヤと笑うのを見て、恥ずかしそうに顔を背けた。 その髪の毛を掻き上げて耳元に口を寄せると、舌を出して耳の輪郭をなぞるように舐めてみる。 「うぐぅぅぅ………!」本音の表情を隠すように顔をクシャクシャにしながら、彼女は下唇を噛み締めた。


「人に散々“ヘンタイ”って言ってたけど、君が一番変態じゃん」

「うぅ…………ごめんなさい……」


涙目でそう謝る彼女を見ていたら、何だかサディスティックな欲望がムクムクと湧いてきた。


「何がごめんなさいなの?」

「……解ってるくせに」

「解らないなあ。 何で謝ったのか教えてよ」

「やだ」

「言って?」

「やだ!」


段々心の底から楽しくなってきて、顔を背けたままの彼女の顎を掴み、無理やり自分の方を向かせた。 「言えよ」低い声で命令すると、彼女の目に溜まっていた滴が一滴、頬をすべり落ちていった。


「キスしただけでイってしまうような、…………変態でごめんなさい」

「“ド変態”だろ?」

「ド変態のドスケベでごめんなさい!」


本格的に泣き出した彼女の鼻から、鼻水が垂れる。 そこに口を付けて鼻水を舐めながら髪の毛を撫で、首筋へ指先を滑らせ、鎖骨のラインを爪で引っ掻いた。


「相楽さんも立派な変態じゃないですか」

「うん、知ってる。
 っていうか“相楽さん”て呼ぶの止めにしない? 名前で呼んでみて」

「やだ! 恥ずかしい!」


眉根を寄せながら言った彼女に、僕はわざと悲しそうな顔をして見せた。 そして身体を起こすと、ベッドから立ち上がった。


「えっ? ――――あの、相楽さん……?」

「…………」

「あのー……?」


ベッドに起き上がって右腕を伸ばした彼女の手が、僕のそれに触れた。 パッと振り払うと、僕はデスクの椅子に座って彼女に背を向けた。 何度か呼び掛けられたが無視した。


「相楽さん?」


そんな声出すな、なんか謝りたくなるじゃないか。


「…………」

「さ、………………し、し、俊太郎」

「ん?」


振り返ってあげた。 というか僕自身も、これ以上無視するのはつらかった。

ベッドに座ってこちらを見上げている彼女は、やはり赤面していた。 そして付け加えるように「――――さん」と、小さな声で呟いた。 うわ、何この生き物。 こんな可愛い女の子と一緒に居るなんて僕、もしかしてもうすぐ死ぬの?


「なあに? つぐみちゃーん」

「なんかそれ、言い方がおやじくさい」

「じゃあ、――――つぐみ」

「…………」



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