君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





何か変な事を言った覚えはないのだが、彼女、つぐみはニヤニヤ笑いを浮かべながらうつむき、上半身をクネクネと揺らしながらフフフフと声を上げた。


「なんだよ」


何で笑うのかは解っていたが、それを素直に受け止めると僕までニヤニヤしてしまいそうだった。

椅子に座ったまま、「ほら」と両腕を広げると、つぐみは喜々とした様子で立ち上がり、僕に抱き付いた。 やはり何時も見ていた彼女とは違い、無邪気で、それでいて生き生きとしている。


別にそのギャップに戸惑ってもいないし、萎えてもいない。 僕だけにしか見せない姿だと思うと、胸のあたりが暖かくなった。


「いつもより素直だね」

「自分でも思ってた。 いつもはこんなじゃないんだよ」

「知ってるよ。
 ――――とりあえず、こういう所は他の人には見せないで」


傍目から見ると完全なるバカップルだ。 多分僕は今、物凄く間抜けな顔をしていて、長年の付き合いであるバンドメンバーには、とても見せられたもんじゃない(特に鹿島とか鹿島とか鹿島とか)。

机の上にある時計を見た。 午前1時を回っている。 それを自覚した瞬間眠気に襲われた。 同じ状態なのか、「眠くなってきた」耳元でつぐみが言う。


「じゃあ、寝るか」


僕はつぐみを抱き締めたまま立ち上がると、彼女の腰と太もものあたりを抱えて持ち上げた。 予想していたよりも軽かった。

楽しそうに笑うつぐみをベッドに降ろし、枕元にいつも置いてる照明のリモコンで明かりを消した。


暗闇とまではいかず、窓から差し込む街灯の光が部屋を僅かに照らしていた。 ベッドに膝をついた僕の目の前で、つぐみの姿が儚い輪郭で浮かび上がっている。 手を伸ばして頬に触れると、彼女の小さな指が手の甲を擽った。 大事にしたいと思った。

彼女を、壊さないように優しく、ゆっくりと抱き締めてやろう。
歌う彼女の隣に座って、それを静かに聴いてたい。 僕の唄も同じようにして聴いていて欲しい。

ただ二人で、過ごせたらそれでいい。 片方が病気か何かで口を利けなくなったとしても、平気だ。 繋いだ手を離さなければいい。

僕は今死んでも構わない。 僕がつぐみを愛していたという事実を、彼女自身が解ってくれているのであれば構わない。


「…………で、お前は何をしてるの」


僕が頬を撫でている間に、僕の着ているシャツのボタンを一つ一つ外していたつぐみに問うと、「寝るなら、パジャマに着替えるか服を脱がなきゃ」という答えが返ってきた。

黙っていると、彼女は僕の様子を窺うために止めた手を再び動かし、シャツのボタンを全て外した。 膝立ちになって僕の肩からシャツを剥がした後、ちょっと迷うような仕草を見せた後でシャツの下に着ていたTシャツをまくり上げていく。


「何? 誘ってんの?」

「ダメ?」


そう言いつつも手は止まらない。 忽ち僕は上半身裸にさせられた。 脱がせた後、つぐみは僕の身体をジッと見て、恥ずかしいとも嬉しいともとれるような声を漏らした。


「なんかね、お腹の辺りがムズムズするの」

「お腹が?」

「うん………」




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