君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
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「函南ー! オレお年玉で犬を買った! 雑種のオス! 名前は加藤さん!」
なんでその名前。
神田のアホくさい新年の挨拶(多分奴はそのつもり)が、傷心で情緒不安定な現在の僕には、
「…………ぉおわぁぁぁぁ!? どうしたの函南っ!」
何故か心に嬉しくて、涙が出た。
情けなくポロポロ涙する僕を見て戸惑い、神田はとりあえずハンカチを渡してきた。 ……周囲からホモ疑惑をかけられそうだ。
「なんで泣くの……? どした?」
「なんかさ…………、人生は複雑な迷路だね」
「え……っ? 何、その意味解んない哲学」
哲学じゃねぇし。
ツッコミを入れる代わりにハンカチで鼻をかみ、それを神田に押し付けると(「こんなきたねーハンカチお前にあげるよ! いらねーよ!」)、始業式へ向かうために整列する生徒らから離れ、僕は逃げるように階段を上って行った。
そして屋上に出て、少し後悔した。 寒い。
歯がカチカチいっているが、僕は戻る気にはなれなかった。 あわよくば、このまま凍死したいものだ。
「………ふられた。 あれ完璧にふられた」
だって言ってた。
僕が嫌いになったと。
他の人と付き合うと。
屋上の扉の陰に尻をつき、膝を抱えた。 惨めで仕方ない。
空はまるで底無しだった。 雲の無い青天井が無限に広がるだけで、ひたすら虚しさを与える。
なんで、草野さんは僕が嫌いになったのだろう?
僕はまだ彼女が大好きだ。
あの長い睫毛も、白い喉も、たまにいじけて唇を尖らせるところも、愛しくてたまらない。
愛してる、草野さんを。
…………愛してる。 愛してるはずだと思う。
でも冷静になると、果たしてそうなのかとも思える。 僕は彼女のためなら何でもする、出来ると思っていた。 そう思うだけで、自分が大人になった気がしてた。
誰かに尽くせると思うだけで、気分が良かったのかも知れない。
確かに、異性として彼女にとてつもない魅力を感じて、恋心があったのは事実だ。 だけど愛ではないのかも知れない。
愛だと思い込んでただけなのかも知れない。
結局、僕は子供だ。
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