君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
しばし物思いに耽っていたが、突然後頭部に衝撃を覚えた。 一瞬目の前が白くなって、ああドアが開いて頭に当たったんだなと自覚するとほぼ同時、ドアを開けた張本人の声が。
「函南! お前どこ座ってんだよ! ――――超ビビったし! っつーか邪魔!」
「舞洲……………―――――死ね!」
舞洲だった。 こいつも始業式をバックレてきたらしい。
冬休みの間に髪の毛を黒く染め直したらしいが、相変わらず巻き髪は健在だった。 しかし化粧は以前より薄い。 中々可愛くなったじゃないか。
「“死ね”ぇ? 函南のくせに生意気」
「うっせえ」
舞洲は僕と違って、きちんとコートを着てマフラーを巻いていた。 それを見て、惨めな気持ちが加速した。
「寒そうだな」
ドアから出て、僕の隣に腰を下ろすと、舞洲はあぐらをかいた。 だらしないな。 スカートが短いからハラハラする。
「なんだよ」
「あんたが階段上ってくのが見えたから。 なんかあったわけ?」
なんかって、………なんかってアンタ。
ありましたよ、そりゃあ。
「……………うわ、泣きやがった」
「うっせぇ」
やはり泣いてしまった。 自然にポロポロと涙が流れてくる。
我慢出来ずに僕は、抱えた膝に顔を埋めると、情けない声で呻いた。
「草野さんにふられた」
「…………」
舞洲は暫く黙ったかと思うと、突然スイッチが入ったように笑い出した。 疳高い声で、手を叩きながら哄笑するのだった。 キャハハハハハハハッッ!と笑い声に鼓膜が震え、
「情けねー!! その程度でウジウジしてやがんの? うわクソガキ!! きめぇきめぇ!!」
散々だ。 ボロカスだ。
悔しいが、正鵠を射た御言葉である。 そのため何の口答えも出来ず、僕は黙ってうずくまっていた。
「で、何でふられたのさ」
「僕が嫌いになった、他の人と付き合うって」
そして舞洲は噴き出した。 恨めしく思って彼女を睨むと、「いい気味」とニッコリされた。
「誰と付き合うのさ」
「…………知らん」
「まあ、アンタとつぐみが別れたのは知ってたけどね」
鼓膜の機能が壊れたと思った。 舞洲が僕らが別れた事を知ってた? しかも名前で呼んでらっしゃった。
なんでだ。
「メールしてるもん」
「えっ? でも僕のからは送信できないんだけど?
壊れてたりしないかって……」
「あの子、この前メアド変えたよ。 まあ教えないけどな」
頭を抱えたくなった。
ついでに死にたくなった。
。