君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





しばし物思いに耽っていたが、突然後頭部に衝撃を覚えた。 一瞬目の前が白くなって、ああドアが開いて頭に当たったんだなと自覚するとほぼ同時、ドアを開けた張本人の声が。


「函南! お前どこ座ってんだよ! ――――超ビビったし! っつーか邪魔!」

「舞洲……………―――――死ね!」


舞洲だった。 こいつも始業式をバックレてきたらしい。

冬休みの間に髪の毛を黒く染め直したらしいが、相変わらず巻き髪は健在だった。 しかし化粧は以前より薄い。 中々可愛くなったじゃないか。


「“死ね”ぇ? 函南のくせに生意気」

「うっせえ」


舞洲は僕と違って、きちんとコートを着てマフラーを巻いていた。 それを見て、惨めな気持ちが加速した。


「寒そうだな」


ドアから出て、僕の隣に腰を下ろすと、舞洲はあぐらをかいた。 だらしないな。 スカートが短いからハラハラする。


「なんだよ」

「あんたが階段上ってくのが見えたから。 なんかあったわけ?」


なんかって、………なんかってアンタ。

ありましたよ、そりゃあ。


「……………うわ、泣きやがった」

「うっせぇ」


やはり泣いてしまった。 自然にポロポロと涙が流れてくる。

我慢出来ずに僕は、抱えた膝に顔を埋めると、情けない声で呻いた。


「草野さんにふられた」

「…………」


舞洲は暫く黙ったかと思うと、突然スイッチが入ったように笑い出した。 疳高い声で、手を叩きながら哄笑するのだった。 キャハハハハハハハッッ!と笑い声に鼓膜が震え、


「情けねー!! その程度でウジウジしてやがんの? うわクソガキ!! きめぇきめぇ!!」


散々だ。 ボロカスだ。

悔しいが、正鵠を射た御言葉である。 そのため何の口答えも出来ず、僕は黙ってうずくまっていた。


「で、何でふられたのさ」

「僕が嫌いになった、他の人と付き合うって」


そして舞洲は噴き出した。 恨めしく思って彼女を睨むと、「いい気味」とニッコリされた。


「誰と付き合うのさ」

「…………知らん」

「まあ、アンタとつぐみが別れたのは知ってたけどね」


鼓膜の機能が壊れたと思った。 舞洲が僕らが別れた事を知ってた? しかも名前で呼んでらっしゃった。

なんでだ。


「メールしてるもん」

「えっ? でも僕のからは送信できないんだけど?
 壊れてたりしないかって……」

「あの子、この前メアド変えたよ。 まあ教えないけどな」


頭を抱えたくなった。
ついでに死にたくなった。



< 108 / 114 >

この作品をシェア

pagetop