君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
「そんなに好きだったわけ?」
「じゃなきゃこんなにならねえ……」
どれだけ好きだったか。 筆舌に尽くし難いのは、きっと彼女だって解ってくれていたはずだ。 なのに何故、僕を嫌いになったのだろうと思う。
どうして、こう、上手く行くと思っていた事が全て一気に壊れるのだろう。
草野さんのためなら死ねるとさえ思っていた。
「うわ、重い」
「…………知ってる」
鼻水を啜った僕の頭に、舞洲のマフラーが掛けられた。 香水のキツい臭いではなくて、むしろなんの匂いもなかった。
「っていうかさ、それ、アンタの自己満じゃん」
「…………は?」
“自己満”という言葉に引っかかり、舞洲を睨み付ける。 しかし奴はどこ吹く風、飄々とこう続けた。
「つぐみのためならなんでも出来るとか言って、本当は自分がヒーローに成りたかったんでしょ?
アイツがアンタにそんな事望んでないのは、関係の無いアタシにも解るよ」
「お前…………、そんな頭の良さそうな発言、言えたっけ?」
驚いた僕が目を丸くして見つめてくるのが不快らしく、舞洲は思い切り顔をしかめた。 「つぐみに本を読まされてるからね」どうやら、彼女と舞洲は知らぬ内に仲良くなってたみたいだ。
「それにさ、つぐみが本気でアンタを嫌うわけないじゃん」
「マジで!? 復縁の可能性ある!?」
「未練たらしくてうざい! それはない!
――とにかく、そう言ったのはわざとだよ。 函南に自分の事、思い出したくもない存在にしてやりたかったんじゃねぇの? その方がアンタも吹っ切れると思ったんだよ、きっと」
「…………舞洲って、女心を解ってんだね」
「それってわざとボケてんの? 天然なの? 生まれた時から女なんだけど」
「あ、そうか忘れてた」
「殺すぞ」
草野さんは、僕のためにあんな事を言ったのか……。 僕が草野さんの事を、思い出すのも嫌になる位嫌悪するように?
僕には解らない。 何でそんな悲しい事が出来るのか、解らない。
「函南は優しいからなあ。 女からしたら、こんなに一途な恋人は簡単に捨てたくないもんなんだけどねぇ」
「………捨てられましたけど」
「それほど、大事な人が出来たんじゃん? まあクヨクヨしても意味ないよ」
「そうですね……」
「だからさ、函南」
「なんだよ」
「―――カラオケ行こうぜ!」
「なんでだよ!」
目をキラキラさせながら立ち上がり、舞洲は僕の頭をベシベシ叩いた。 痛い。
「きっと皆は始業式だから、教室には誰も居ないよ! 今のうちにカバン取って抜け出してカラオケ行こうぜ! どうせ超かったるいんだからさ!」
「…………」
断ると殴られそうだ。
。