君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





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年を越して三週間目、函南くんと別れて相楽と付き合う事になってからも、三週間目。 
私は一人で、あのカフェに居た。

何時も座るカウンターではなく窓際の、二人掛けの席に座っている。 何時もは夜中にここに来るのだが、今日は昼下がりだ。

アーケードに雨が当たる音が、僅かに鼓膜を震わせる。 カフェの店内に流れているジャズの方が、それよりも鮮明に聞こえるけど。


昼下がりに来たのは久しぶりだ。 カウンターの中にはアルバイトの女性が居り、客は私と、女子高生が二人、近くの席に居るだけだ。


その女子高生の話題の稚拙なこと。 やれ芸能人が格好いいだの結婚したいだのと、ありふれてる上に知識の供給がテレビのみらしい。 あの番組でこうだったとかニュースではあんな風だったとか。
本は読まんのか。


「…………はぁ」


聞いてるだけでイライラしてきた私は、長いため息を吐いた。

話題はコロコロと変わり、一瞬だけ相楽と桜沢恵美の話が出た時は思わず聞き耳を立ててしまったが、すぐに顔立ちの良いスポーツ選手の話へ移った。 そいつが浮気したとか何とか。


さて、何故この時間帯にこのカフェに来たかというと、相楽との待ち合わせの約束があるからだ。 およそ二週間ぶりに会える。


本音を言えば、沢山会いたいのだけれど、先方は結構人気のあるミュージシャンだ。 函南くんのように、会いたい時に簡単に会える人ではないし、例え私を愛していても(そのことは痛いほど解る)、私一人のために仕事を棒に振るほど甲斐性が無いわけでもない。


相楽は交際してみると、意外(というのは、少しひどいかも知れないが)と生活力があり、金銭感覚もちゃんとしているという事が解った。

私を蔑ろにする事もなく、会わなくてもほぼ毎日、メールのやり取りをしているし、電話の回数も多い方だ。 私は私で、少し寂しくもあるが、相楽には音楽を止めないで欲しいので我慢している。

ボーっと窓の外を眺めていると、女子高生らの声がまた聞こえてきた。


「ねぇ、あの人さ、さっきから一人で座って、さびしくない?」

「友達も彼氏も居ないんじゃね?」

「うわぁ、みじめ過ぎてウケる!」


みじめなのはどっちだ。
っていうか、話題が無くなってきたら他人をいじりだすのは勘弁して欲しい。 迷惑だ。

そうやって見ず知らずの他人を非難するけど、自分らはアイドルとの結婚を本気で考えたりする自意識過剰な世間知らずのくせに。 せいぜい薄っぺらな優越感に浸ればいい。



それに、彼氏は居る。


窓の外の通りを小走りでやって来る姿を見て、私は嬉しくなった。


「ごめん、すげー遅刻してるよね」


カフェに入って来て直ぐに、俊太郎は私を見つけた。 息を切らしているところからすると、走ってきたようだ。



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