君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を






………
………………
………………………





「僕と結婚してくれる?」


僕の口は、勝手に動いていた。

居間にあるソファーに座るつぐみの太ももに頭を乗せ、右腕で膝を抱えるようにしながら、ボーっとテレビを見ていた。

テレビはゲーム画面だった。 アクションゲームをしているのはつぐみで、画面では小柄な女の子のキャラクターがとんでもない動きで、敵を大量に倒し続けていた。 物凄いコンボ数。


「うぇっ!?」


僕が言葉を発した瞬間、画面の中のキャラクターの動きが止まった。 そしてボコボコとそいつが攻撃されまくってダメージを受けていく。 難易度は“修羅”モードなのでダメージも物凄い。


「何!? ――――今、何て言ったの!?」

「ちょっと、死にそうだよ」

「いいよゲームだし! それより、今何て言ったの?」

「このキャラ、君に似て可愛いね」

「――――えっ? あ、ありがとう…………」


やがてキャラクターは体力の全てを消費し、画面にゲームオーバーの文字がでかでかと映る。 つぐみはコントローラーを床に放って、膝枕をしている僕の髪の毛をグシャグシャと掻き回した。


単純だ。 僕はつぐみと結婚したいから、結婚してくれと言った。 それだけだ。


結婚すれば彼女の名字は僕と同じになる。 それは僕の下らない征服欲とも取れるけど、やっぱり僕は、この子と一緒になりたい。 心底そう思う。

僕は起き上がり、未だ状況を掴めていない様子のつぐみを抱き締めた。


「君と結婚したい。
 別に今すぐとは言わないけど、君とは離れたくない」

「…………っぬぉぉぉ…………………っっ!」

「お前の未来を頂戴。 そのかわり、僕のもあげるから」


僕は君の僕。 僕の唄も君のもの。 愛の唄は全部君のために歌う。


好きで、愛おしくて、今つぐみは僕の恋人になって、幸せなはずなのに。
幸せが過ぎて泣けてきた。 感動でもあり不安でもある。


ただ一つ、確かなのは、僕はつぐみに一生を捧げられる。 それは自信がある。



僕の服の肩のあたりを、つぐみの小さな手が握り締めているのが解る。 細い腰に回した腕に力を入れ、その身体を自分と密着させる。 服を通しても、その心臓の大きな鼓動が感じられた。



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