君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
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あれから一年と少し経った。
周りの奴らは受験で忙しくなる中、僕は父親が経営している楽器店を継ぐ事にした。 その方が人生楽だと思った。
両親はいまだ元気で、元気過ぎて去年父が50歳、母が38歳だというのに三人目の子供を産んだ。 妹だった。
一週間と少し前から、店のある商店街はクリスマスの飾り付けが全体に施され、心なしかいつもより活気にあふれているように見える。
僕はその日、午後3時から店の二階にあるギター売り場の片隅のレジに座っていた。 暇なので、父親から13の誕生日にプレゼントされたジャズマスター(エレキギターだ)を、スピーカーに繋げずに弾いていた。 ギターが弾けても作曲なんてものは出来ないし、バンドもしてない。 だが純粋に弾くのが好きなので、弾けたらどこでもいいと思う。
最近好んで弾くのはビートルズとBUMP OF CHICKENだ。 前者は父親の影響で好きになり、後者は音の正確さと曲の良さが好きだ。
好きな曲を、店の片隅で延々と弾き続けるのは、ここ数年僕の日課だ。
そんなふうに、その日も僕はギターを弾きながらレジの中に座っていた。
冬で外は寒かったので、先ほど店内の暖房の温度を少し上げた。 正直、冬が苦手だ。 母親は「夏生まれだからよ」と言って笑うが、果たしてそれを裏付ける証拠があるのだろうか。 理屈が意味解らない。
壁にはギターが沢山掛かっている。 その一角、アコースティックギターの売り場に、不自然な空白がある。
1ヶ月前、そこには一本のアコースティックギターが引っ掛かっていた。 たまに弾いてみると、すごく綺麗な音がして気に入ったから、いつか小遣いを貯めて買おうと思っていた(父親に「二本目からは自分で買え」と言われていた)。 なのに貯金を始めて1ヶ月、やっと値段の半分が貯まったある日、あろうことか僕が学校に行ってる間に誰かが購入したという。
正直悔しいが、まあここは店だし。 仕方ないと諦めた。
「誰が買ったのかなー男かなー女かなー女なら美人がいいなー」
物凄く馬鹿みたいな独り言に乗せて、適当なコード進行でギターを弾く。 それがどうしてか聞いた事のあるものだったので、何度も何度も繰り返してみる。 五回目くらいで何だったか気づき、歌おうと口を開いた。
しかし、
「かーえーるーのーうーたーがー」
一階から階段で上がってきた女の子が、僕より先に歌い出した。 やたら通る声で、軽く10メートルは離れた場所で小さな声で歌っているのに、鮮明に聞こえた。
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