君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
「……その店長、俺の親父なんだけど」
「え? ――――じゃあここ、君んちの店? 跡取り息子?」
「跡取り息子」
「へえ」
「で、それを欲しがってたのも――――」
「君?」
「俺」
「そりゃごめん」
反応が軽い。 というかどうでも良さそうだ。
「でさ、換え方教えてよ」
「えー…………?」
「拗ねないでよ。 教えてくれたら一緒に食事しに行ってあげるから」
「…………」
その誘いに、思わず黙ってしまう。
久しぶりに会ってやはり実感した事がある。 ――――彼女は綺麗だ。
他の同年代の女の子とは違い、簡単には触れないガラス細工のような繊細な雰囲気がある。 それが未だに、僕の心を掴んだままなのだ。
そして彼女は見透かしていた。
僕が彼女を好きだって事を、最初から解っていた。
「早く教えなさいよ。 また君の父さんに教えて貰うよ。 で、そのエレキも商品だって勘違いしたフリして買っちゃうよ」
「勘弁してよ! ちゃんと教えますから!」
かくして、僕は草野さんにギターの弦の張り替え方を教えたわけだが。
草野さんはギターを始めて1ヶ月だという。 その割にはかなり、扱いが上手い。
弦の張り方もすぐに覚えた。 要領が良い。 説明して別のギターで見本を見せていたはずの僕よりも、はるかに上手に弦を張ってみせた。 何か悔しい。
「ありがとう」
「…………なんかさ、うまくね? マジでギター歴1ヶ月?」
「才能があるからねえ」
自分で言うなよ。
サラリと自信満々な事を言って、彼女は弦を張り替えたばかりのギターを構え、ピックを手にとった。
そして弾き始めた。
「――――っ」
何の曲だか解らないが、とにかくその弾きっぷりに鳥肌が立った。 ジャカジャカ乱暴に弾いてるようで実は優しく弾いてるようにも見える。 ぶっちゃけどっちかは解らない。 とにかく僕は、彼女のギターに圧倒された。
「――――まあまあかな」
一通り弾き終えると、草野さんは顔を上げて僕に笑いかけた。 大人が我が子を愛しむ時にするような表情だった。
「有難うね、函南くん」
。