君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
しかし彼女は完全無欠の高嶺の花であり、今みたいに隣に立って歩くなんて、あの頃は思ってもいなかった。 故に今のこの状況はある種の優越感を僕に与え、同時にちょっとした不安感も覚えた。
一緒に居る僕は、周りからどんなふうに見えているのだろう?
弟? 兄貴? 弱そうで冴えない男?
「恋人」に見られるだろうか? ――――無いな、それは。
どちらにせよ、僕の存在は彼女の存在と比べたら、大したものではないのだ。
「どうしたの?」
「…………別に」
「もしかして、女の子と二人で歩くのは初めて?」
…………まあ、確かにそうだけどさ。
僕は素直に認めたくなくて、顔をしかめた。
「それくらいあるし」
「……姉ちゃん以外でだよ?」
「………………あるし」
「……………無いだろ」
「無いよ。 無いっすよ」
「何で怒ってるのよ」
怒ってるというより、拗ねてるのだが。
自分は今まで、恋人が出来た事も無いし、それどころか女の子と仲良く話す事すら上手く出来なかった。 別にそれが恥ずかしいと思うわけではないのだが、草野さんにそれをアッサリと見抜かれ、何を考えてるのか解らない笑顔で見られるのが、やけに悔しくなる。
「君は子供だね」
「悪かったね」
「…………いや、羨ましいよ」
羨ましい?
不思議に思って横を見ると、草野さんは前を向いたまま、寂しげに微笑んでいた。
「学校行って、友達と仲良くして、普通に幸せな生活が送れている証拠だよ。
私もそんな風になりたい」
何も答えられなかった。 僕は悲しくなった。
「…………ね、あの頃に流れた私の噂、全部嘘だからね」
「解ってるよ。 あれは明らかに滝本の逆恨みじゃん」
「うん」
「あのさ、滝本との件について一つ………………き、訊きたいんだけど……」
き、キスとかしたんですか……………?
というか具体的に、どこまでいったんですか。
…………まあ、たった一週間の交際で、そこまで深い仲にはなれないだろうけどさ。 でも、もしかしたら早い展開ですでに、………………行き着く所まで行ってるのかも。
「何?」
「あの、その、…………えっとですね」
知りたくもあるが恐ろしくもある。
隣で不思議そうに見上げてくる草野さんと目を合わさないよう、僕は視線を周りの店に向けた。
「滝本とは、どこまで…………?」
「? ――――ああ、そういう事」
。