君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





一年、私はイジメに耐えた。
そんなに我慢していたのだから、誰か誉めてくれてもいいのではとさえ思うくらいだ。

だがそれも、ある日の天気の良い朝を境に終結した。




朝起きて制服に着替え、昨日の夜に家政婦が作って置いた不味い朝食を採った後、通学のために家を出た。

今日はどんな行動をしてくるのかと、半ば動物実験をする科学者の立場であるかのように考えながら、ゆっくりと歩き、近所の公園の横の道まで来た。
そこで、私の右を一人の小学生の男の子が走って通り過ぎていく。


男の子は野球少年らしく、野球帽を被って肩にはエナメルのスポーツバッグと、バットの入った細長い入れ物を掛けていた。 私の目はその入れ物に釘付けになった。


「ねぇ」


大声で呼びかけると、男の子が振り返った。
財布を取り出し、一万円札を五枚あげるからそのバットを譲ってくれと男の子に言った直後から、暫く意識が飛んだ。











次の瞬間、気付いた時には既に私は自分の学校に居て、教室の中でバット片手に立っていた。

窓辺の席の近くで、教室の中にはクラスメートが全員居た。 だが各々の席には居なかった。
そもそも教室中の物という物が散乱しているのだ。 椅子も机も関係無しに倒れ、転がり、誰かの教科書は私の足の下でぐしゃぐしゃになっていた。


クラスメート達は教室の黒板の近くの隅に全員で固まって、怯えた目で私を見ていた。


「…………」


ああ、なるほど。 私は暴れたのか。


男の子に話し掛けてから今までの記憶がごっそり抜けてはいるが、私がこの惨状を作り出したのは間違いない。 証拠に私の両手両足は慣れない動作(バットを振り回すとか何かを蹴り飛ばす)を繰り返したせいで疲れて痛かったし、呼吸も大分乱れていた。


これからどうするか、一瞬途方に暮れて逃げ出したくなった。 だが思い直し、とりあえず目の前に一つだけ倒れずに残った机があったので、それを蹴り倒した。


机の上にあったペンケースが足元に落下し、開けっ放しだった口から中身が飛び出してきた。 ペン、鉛筆、消しゴム、物差し、―――――カッターナイフ。


それを見た瞬間、思考が停止したようだった。 理性が身体から抜け出し、抜け殻となった身体は勝手に床にしゃがみ込む。



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