君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を




ドアを開けて入った玄関は、左側に背の高い靴箱があり、反対側には靴を履いたり脱ぐ時に使うためかベンチが壁に取り付けてある。 玄関にベンチ………。


白いタイル張りの床にスリッパを二足(片方は彼女が使うものなのか、猫の頭をモチーフにしたものだ)置き、


「上がんなさい」

「お、お邪魔します」


僕はあまりにも緊張したもんだから、靴を脱ぐのにもかなり時間を食った。 どうしてか靴紐を丁寧に解き、どうしてかまた綺麗に結び直した。


「何してんの」


それは僕も知りたい。 何してんだろう、僕。
ベンチに座り、靴を脱ぎながら彼女を見上げると、おどけた笑みを浮かべていた。 「よしよし」と言いながら、彼女が僕の頭を撫でる。


「緊張しなくても大丈夫だよ」

「……無理だよ」

「なんでよう」


お仕置きをするように僕の髪の毛をグシャグシャにしながら、僕の隣に座った。


「早く脱げよー」

「待って待って、あと片足脱ぐだけだから」

「スリッパ、あの白いやつね」

「うん。 っていうかさ、君が履いてるそのスリッパ、子供っぽすぎない?」

「いいじゃん、にゃんこ」


足をパタパタ動かして、「にゃー」と両手を軽く握った拳にして見せた。 猫の真似だろうか。

…………ちょっと萌えた。


「脱いだ? スリッパ履いた?」

「うん」

「行こう、レクター博士のやつ観よう」

「エクソシストは?」

「また次ね」

「―――― 一人で見るの?」

「一緒に観たい?」


ふふ、と悪戯っぽい笑顔を見せ、立ち上がって家の中に入っていく彼女。 僕は急いでスリッパを履いて彼女を追い掛けた。




二メートル程廊下が続き、円形に開けたスペースに出た。 四角形を描くようにドアが四つあり、リビングへと続く通路が正面に伸びている。 「トイレはここね」と、彼女は歩きながらドアの一つを指差した。 アンパン男(仮名)を作ったジャム親父(仮名)の助手女(仮名)のシールが貼ってある。 「解りにくいから」と彼女。




リビングは、「馬鹿じゃねえの」と言いそうになるくらい広かった。 軽く三十畳はあるだろう。
カウンターを隔ててキッチンがあり、外国みたいな木のストッカーに包丁が入ってる。

テレビの正面にある、三人掛けソファーを指差して「コート脱いで渡して、そこに座りなよ」と彼女が促し、未だ緊張していた僕は無言、脱いだ自分のコートを彼女に渡した。

彼女が僕のコートを持ってキッチンのカウンター前にあるテーブルセットの椅子に掛け、自分もコートを脱いだ。



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