君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を






しばらくして、私達は寝室に向かった。

二人してそういった経験が無いので、もしかすると互いに戸惑って上手く出来ないのではと不安になった。


しかし杞憂だった。


確かにぎこちない所はあったけれど、最終的に自分達がどうなりたいのかは明確であった。



まず首筋にキスされて、声が出た。 こんな事が気持ち良いはずないと思っていたけど、函南くんの唇が自分の首筋に触れた瞬間に、全身に鳥肌が立った。 吸血鬼に血を吸われるような気分になった。


自分以外の他人に体を触られたり、体中にキスされるのは、何とも不思議な感覚だった。
自分でもしたことの無い触り方をしてくる。 気付けば、止めないでと言うかのように自分から函南くんの肩にしがみついていた。


「大丈夫?」


それを痛がっていると思ったのか、私の耳元で彼の心配そうな声がする。 大丈夫だと答えたのだが、胎内に在った指を引き抜かれて、私は少し淋しくなった。


「ちょっと痛いけど我慢してね」


だけど次の瞬間、私の胸は恐ろしさと待ち遠しさでいっぱいになった。 少しずつ、函南くんが私の中に入ってくる。 痛かった。

体の一部を裂かれているような痛みだった。 自分の体に一体何が起こっているのか、一瞬理解に苦しんだ。


痛みを和らげようと力を抜いてみたら、少しましになった。 しかし予想外の圧迫感だった。
私の体はバラバラになるのではなかろうか。


「ごめんね、草野さん…………、ごめんね……」


別に謝るような事ではないのに、函南くんは自分が私の中に入る度に泣きそうな顔で謝った。 可愛いと思った。


何かよく解らないけれど、今この瞬間に感動した。 今まで性的な事に対して、どちらかというと嫌悪感に近いものを抱いていたのだが、その考えを改めた。

それは気持ちの悪いものではなく、とても尊くて素晴らしいものだと。 そう感じた。 言葉で好きと伝えるよりも威力がある。 だって二つが一つになる。 それはちょっとした奇跡だと思う。


全て入りきり、函南くんは火が点いたように熱い体を倒し、同じように熱いであろう私の体と密着した。 髪の毛を優しく撫でられ、この人は本気で私が好きなんだな、と再度思わされた。





こんなに幸せな事なんて無い。





気付いたら泣いていた。
自分が愛されてる事が嬉しかった。

ずっとずっと、こうやって誰かに抱き締めて欲しかった。 愛して欲しかった。
その光景を想像しては焦がれ、憧れた。


今こうしてみると、想像とは比べ物にはならないものだった。




< 39 / 114 >

この作品をシェア

pagetop