君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を




「動いても大丈夫?」


私の頬の涙を拭いながら、函南くんが苦しそうに訊いた。 電気を消しているのでボンヤリとしか見えないが、彼も泣きそうなな顔をしていた。 それが無性に可愛くて、彼の頭を撫でる。


「いいよ」


その時の自分の声が、思った以上に悩ましい響きをしており、我ながら驚いた。 こんな声出せたんだ。

函南くんの体が動き始めた。 途端にゆるゆると和らいできていた痛みがぶり返し、声を殺そうと下唇を噛む。 堪えきれなかった声が口の端から漏れる。


「…………ごめん……っ」


また謝る。 嫌なんかじゃないから、謝ってほしくなんかないのに。

少しずつ、体の中心を貫く痛みが甘い衝動に変化していく。 気持ち良いのだけれど、なんかもどかしい。
函南くんの体の律動に合わせて吐息が溢れる。 もう痛くない。 ひたすら体が熱くて、意味が解らない。
マッサージとかの気持ち良さとは違う、体の内側から押し上げてくる波のような感覚が、何度も私を支配する。



もっとして。 もっとして。 もっとして。
胸の内で連呼した。



私を壊しちゃうくらい、もっとして。


それに応じるかのように、彼の動きがより深くなった。 叫びに近い声が出た。

あまり複雑な思考が出来なかった。 肌に触れてる函南くんの体と、胎内にあるものの存在と、あとは自身の下腹にあるえもいわれぬ感覚。 頭の中にあるものの中で、明確なのはそれくらいだった。








それからどうなったか、実は記憶が曖昧で。 目の前が一瞬、真っ白になった事は覚えている。
しかしその後はただただ疲労していて、函南くんが私の中から居なくなり、私の上から退いた後、眠くて枕に顔をうずめた。


「眠い?」

「うん」

「…………帰ろうか、俺」


なんでそんな意地悪言うんだろう。 さっきから「一緒に寝よう」って何回も言ったのに。 ――――生まれて初めて、そうしたいと思って言ったのに。


「……バカ」

「ご、ごめん」

「……帰んな、バカ」

「…………でも、」

「大好きだこんにゃろー。 帰らないでバカたれー」


ベッドに上体を起こして座る函南くんの右手を掴み、軽く引いた。 どうやら嬉しいのか、顔が少しニヤついていた。 可愛いなあ。


でもごめん、君の事は好きだけど、

君が私を愛してるのと同じようには、私は君を愛してない。


君が好きでも愛してない。


私が本当に好きで、愛してるのは誰だろうか。
“彼”だろうか。

――――――馬鹿。 夢を見過ぎだ。

この感情は捨てなければならない。



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