君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
「真っ赤だよー」
自分でも馬鹿みたいににやけながら、函南くんに近付いて濡れた髪をタオルで拭いてやった。 彼は照れながらも拭かれるままにだった。 背伸びしてキスすると、自分が映画の主人公になった気分だった。
「はい、タオル戻しておいで。 ご飯食べよう」
「うん」
自分以外の人に料理を食べさせるのは初めてだったので、もし函南くんの舌に合わなかったらどうしようかと思っていた。
しかし、彼は思いの外美味しそうに食べてくれた。 卵焼きの塊を、大きく口を開いて食べる様子をを見ていると、嬉しくてたまらなかった。
食べ終え、二人で皿を洗った。
「帰ったら親父にニヤニヤされるだろうなあ」
「あはは」
「笑い事じゃねーし。 またいかがわしい事を一方的に教えられるんだぞ、きっと」
「素晴らしいお父さんじゃないの」
「どこが」
彼が洗った皿を拭きながら、「へへへ」と笑いながら軽く自分の体をぶつけた。 仕返しとばかりにぶつけ返された。
「映画でも観に行こうか」
「いいよ。 どれ?」
「ホラー映画」
「なんでだよ。 昨日も観たじゃん」
「じゃあバイオレンス映画」
「嫌だよ。 どうしてもそれが観たいなら一人で観ろよ」
正午近くに家を出た。 寒かったので自分から函南くんの手を握ってみた。 やっぱり彼は照れた。
「もうすぐクリスマスだねぇ」
「そうだねぇ」
「もう来週だ」
「早いなあ。 クリスマス終わったら一週間足らずで年末だぜ」
「クリスマス、うちに泊まる?」
「うん………。 ――――――えっ!?」
冗談だったのだが、函南くんは驚いた。 また真っ赤になった横顔を見ながら、私は歩いた。 幸せだと思った。
。