君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
「なんか、顔はオジサンと似てるけど、雰囲気とかは全然似てませんでした。
っていうか……」
「生気が無い?」
「そうそれ。 なんかあったんですか?」
まあ、単純にファンとしての純粋な疑問だ。
オジサンは口を真一文字にして、鼻から長く息を吐いた。
「なんにも無いよ。 イジメにもあってないしその逆も無い。
音楽やってた以外はなんにも無い」
「“無い”? じゃあ生まれつき嫌な奴…………?」
「そうだね。 嫌な奴だね」
実の父親がそれを言うのはどうかと思う。 私だって言った後に軽く窘められると思ったのに。
つまり父親でさえそう思う程、相楽は屈折した人間である、という事なのだろう、きっと。
「でもね、俺は俊太郎の唄が好きなんだよ。 あいつが書く歌詞は素晴らしいと思う。
――――あ、これ、別に親バカじゃないからね」
「でも、解りますよ。
私もあの人の唄が好きです」
よく解らないけど、あったかいんだ。
心がフカフカに柔らかくなるんだ。
だから、相楽が「嫌な奴」でも、どうしても本気で嫌いにはなれない。
きっと、相楽は本当はもっと優しい人なんじゃないかと思う。 だから彼の歌声は、あんなに心地好いのだ。
何だかんだ言っても、私も、そしてきっとオジサンも、――――彼を信じたいのだろう。
。