君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
イチゴの甘酸っぱさを味覚で堪能しながら、果物っていいなと思った。 世の中には果物全般が食べれない人も居るらしいが、そんなのは人生の半分を無駄に過ごしているようなものだ。
カウンターにある小さな液晶テレビの電源を父親が入れ、番組表からチャンネルを選択した。 昼間に観ようかなと思い、先ほど観るのを止めようと考えていた、あの映画のオープニングが画面に映る。
「なあ、これって二作目?」
「そうかもなあ」
「脳みそ食うやつだよな?」
「そうかもなあ」
「昨日何食った?」
「そうかもなあ」
「…………ちゃんと答えろよ」
明らかに懈そうな様子で、父親はカウンターに肘をついて、大通りに面した窓から外を眺めていた。
そんな父親越しにテレビを見ながら、フワフワに柔らかいスポンジを咀嚼する。 時々アホだと思うが、父親の作る料理は世界一だとも思う。 テレビとかでよくある「一流シェフ」の料理を食べた事もあるが、そんなに美味しいとは思えなかった。 きっと人柄の良さが、料理に現れるのだろう。
何故ならば、ちょっと覗いた時にその「一流シェフ」とやらは料理人には神聖であるはずの厨房で喫煙中だった。 だから料理も不味いんだ。 きっと材料にタバコの煙が染みついてんだ。
「親父」
「何だよ」
「このケーキまだある?」
「お前に食わせるケーキはもう無い」
「何でだよ」
「お前以外に食わせる分はある」
「だから何でだよ」
ツンデレか。
そっぽを向いて口笛を吹く、というわざとらしさの手本のようなとぼけ方をした父親に、テーブルの端にあるティッシュを一枚丸めて投げつけてやった。 それは見事に彼の頭に当たり、バウンドして床に落下した。
「このやろー」
父親の反撃は予想していた。 どうせ布巾でも投げるんだろうと考えながら、カウンターの中で腰を屈めた姿を見ていた。
「おりゃっ」
「っどわー!」
しかし投げてきた物は予想外だった。
冷たい氷が一個(一個でも拳大)、放物線を宙で描きながら飛んでくる。 間一髪で立ち上がってそれを避けた。 椅子の座面に落下した氷は砕け、床に飛び散った。
「はい掃除」
おまけに父親は箒とちりとりを投げて寄越す。 なるほど二重の攻撃か。
ついでに投げられた布巾が頭に被さり、それを取るのも何だか面倒なのでそのままにした。 箒で氷を集めてちりとりに入れ、父親に渡すと、
「ドジョウ掬いのオッサンかお前は」
「親父が投げたんだろ」
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