君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を








三万円返し損ねた。
昨日着たコートのポケットに入れたまま。 店の中に居る相楽の姿を見た時は、きちんと入れて来たかを確認するためにそこに、手を入れたくらいだ。 しかし、オジサンの「美人なカノジョどうなった?」発言に全てを忘れた。

腹の底が燃え上がり、すぐさまその場から消えたくなった。




帰宅してすぐに寝た。
起きてシャワーを浴びた後、牛乳を飲みながら朝の情報番組を延々と見てボーッとしていた。 ふと気付いたらサングラスを掛けたオールバックの小男が好き勝手に動いてる昼の長寿番組が始まっていた。 ボーッとしすぎた。

何もする事が無い。
いや、する事が思いつかない。
というか、何もする気になれない。

いつもなら、曲を作ったり本を読んだりするのだが、今日はそれもしたいとは思えなかった。


テレビを見ながら、傍らに置いた例の図書館で借りた本に触れた。 読むでもなく、ただ二三度パラパラと捲る。



昨日の夕方、函南くんにメールでこの本を返すように頼んだ。 今日、学校が終わったら取りに来ると返信が来た。


「…………」


でも、考えてみれば我ながら情けなくなる。
前にあの学校で事件起こしたから何だ、イジメに遭ったから何だ。 何で私が、あそこを避けなければならないのだ。 何だか自分があの学校から、逃げてるような気がする。 あの学校の、私を知ってる人間達から。


それを考えると悔しくなる。



悔しくなったので、立ち上がった。


「よし決めた」





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