君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を






………
………………
………………………


草野さんの一件があった以降、僕の通う高校でイジメが無くなったかというと、全くそうではない。


僕が知る限りでは三人、イジメの被害に遭っている。
そのうち二人は転校し、一人は自主退学。


もちろん、その自主退学した一人は草野さん。 しかし彼女の場合は、若干イレギュラーだったかも知れない。
彼女はイジメに苦しむどころか、どうでも良さそうだった。 何をされても無表情で、生きてるのに死んだような感じだった。
だからこそ、あんな事件が起こるまで誰も気づけなかった。




転校した二人は両方とも女子生徒。
イジメの主犯も女子生徒。

というか、草野さん以降のイジメは女子しか関わってない。
つくづく女って怖いと思う。


イジメの主犯達は、ターゲットが転校する度に新しいターゲットを決め、徹底的にイジメた。
そして現在進行形。




現在ターゲットにされているのは、クラス内で一番大人しくて、休み時間は読書ばかりしている、吉永という女子だ。
眼鏡を掛けたツインテールの、やたら暗そうな雰囲気の人で、イジメが起こる前からクラスで浮いていた。

別にオタクで気色悪い人間だからではない。
取り分け不細工ではない。


そうではない。
彼女が読むのは芥川龍之介や宮沢賢治やらで、“そっち系”ではないし、顔も普通に可愛い。 草野さん程ではないが美人だ。


問題は別にある。
彼女は言葉を話さないのだ。
口を利かないのだ。


しかし話し掛けると、ちゃんと反応する。 怯えたような笑みを浮かべ、オドオドと目を泳がせるだけでまともな態度もしない。

顔だけ見れば可愛いが、話し掛けたらイライラするのだ。


先天的な病気ではない。 小学校から一緒だという人の話では、昔は普通に喋ってたらしい。

しかしある日突然、今のようになったそうだ。



とにかく、吉永は女子達の格好の的になり、毎日のように嫌がらせを受けているが、効いているかどうかは解らない。 黙ったままだし、いつも悲しそうな顔をしてる。


そしてその吉永は、先週の席替えで僕の右隣になった。

休み時間の度に女子がそこに群がって彼女に言葉の攻撃をするし、毎日毎日、色んな嫌がらせをしている。 そのとばっちりは食らいたくないので、毎時間授業が終わると席から離れている。


「吉永お前聞いてんの?」

「何か言えよ」

「顔上げろバカ」

「キモいんだよ!」

「キモーい! マジキモい!」


…………ずっとこの調子だ。
うるさくて仕方ない。



.
< 57 / 114 >

この作品をシェア

pagetop