君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





昼休みが始まって10分。 終わるまで50分。 弁当をさっさと食い終わった女子らが、蟻のように吉永の席のまわりに群がった。 僕は友達の神田と共に、窓際の席を二つ並べて弁当を食いながら、その異様な光景を眺めていた。

僕の席に、一人の女子が汚いケツを乗せて座った。


「また座られてるぞ、函南」

「…………」

「にしても、よく笑ってられるよな、女子たち」


僕の弁当から、さりげなく箸で卵焼きを摘んで食べながら、神田は溜め息を吐く。 仕返しに、僕は奴の弁当からたくあんをあるだけ一気に摘んで口に運んだ。 神田家の漬け物は何故だか美味い。


「麻薬が無くても、脳みそから麻薬物質がトロトロ溢れてんだよ」

「なるへそ」

「へそってお前……。 死語じゃね?」

「そうですな」


神田の箸が僕の弁当に伸びる。
負けじと僕も奴の弁当に箸をつける。


「やめろよ」

「そっちこそ」

「お前の唾液が着いた箸で俺の弁当を汚すな」

「うるせえ。 お前こそ函南菌を感染すな」

「菌じゃねーし」

「っていうかお前の弁当美味そうなんだよ」

「じゃあ交換するか」

「賛成」


互いの弁当をトレードし、食べながら教室を眺めた。 他の生徒らも、吉永の事に気付いているが無視している。 慣れてしまったのだ、恐ろしい事に。


「ってかさぁ、函南」

「何だよ」

「可愛い恋人が欲しいね」

「…………」


何故それを僕に言う?
悲惨過ぎて泣けてきそうだ。 なんだそのモテない男の嘆きは。


「函南もそうでしょ? 可愛い女の子とキスしたりイチャイチャしたりしたいじゃん。
 それとも何? 生涯独身童貞宣言するんですか? もしくはホモになりますか?」

「なりません。 …………っていうか」


もう、僕は童貞じゃないんですが。
とりあえず黙っておいたが、神田に対しての優越感で口元が緩んでくる。


「え、何そのニヤケ面……。
 ――――もしかして、もしかしてお前………………!」


神田の「有り得ない」という疑惑と、「先を越された」という絶望の二つの感情が入り混じった視線を受けながら、僕は思い切りニヤリとして見せた。 途端に神田は奇声を上げてのけぞった。


「うーそだろー!」

「本当です」


神田の驚きぶりに、周りに居た男子生徒が集まってきた。




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