君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を




やりたいことを見つけたからには行動あるのみと思った私は、昼を待ってあれだけ嫌だった外出をした。


真っ先に商店街にある楽器店へ向かい、店長らしき人に「一番高くて使いやすくて音が綺麗なギターを下さい」と言って、アコースティックギターを購入した。
あと白紙の五線譜と、ギターを弾くのに必要なものを色々と。


その足でCDショップにも向かい、“彼”のバンドのCDとDVDを全部買った。


そのまま帰宅した。 さあギターを弾こうと考え、ウキウキと土足のままリビングまで走って行く。
荷物を放って、ソファーの上に新品のギターケースを置いて隣に腰掛けた。 開いて中を見ると、新品のギターがボディに私を映した。 私は笑っていた。


ケースから取り出したギターを膝の上に置いた所でハタと気付く。 肝心の弾き方を知らない。初心者用のテキストを買うべきだった。


「あーあ」


自分の出した声とは思えないほど明るい。

残念、と呟きながら、六本並んだ弦を一本一本弾いていく。


“彼”のように弾きたかった。
“彼”のように歌いたかった。


あんなに綺麗な声なのに、“彼”は自分を愛しているようではなかった。
自分はクソ野郎なのだと歌う彼は、クソ野郎なんかじゃなかった。


そんな自称クソ野郎と、同じ場所に立ってみたかった。 そして直接、あなたはクソ野郎じゃないと言って、目が覚めないようならぶっ飛ばしてやりたかった。


私も自分をクソ野郎だと思っているが、きっと違うのだろう。


それを今から確かめるのだ。


決心して、私はもう一度指で弦を弾いた。

テキストを買わなかったから何だ。 弾き方なんて、パソコンで調べりゃいいじゃないか。 歌うのだって、最悪ギターが弾けなくても出来るじゃないか。


ほら、今だって歌える。


「あー…………」


歌える。


「あ…………」


適当に弾いているギターの音が、頭の中で繋がっていく。 物足りなくなってギターを見様見真似で構え、フレットを押さえて一本の弦を弾く。 そうそう、この音。

気づくと、私は歌っていた。


「君の大切な人が ずっと隣にいますように
 君の大切な時が ずっとずっと続くように」





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