君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
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売店に用事があるという函南くんと別れて、私は再び校舎の二階に降りた。
廊下の角を曲がって暫く歩くいて行くと、三年の理数クラスの教室があった。 先程まで吉永に寄って集っていた女子生徒らは、士気を無くしてそれぞれの席にシュンと座っていた。 舞洲もその中にいたが、彼女だけはギラギラと怒りに満ちた目つきで、前方にある黒板を穿つように睨んでいた。 多分あと30分睨み続けたら本当に穴が空く。
私が廊下の窓から教室を覗いて見ると、舞洲は素早くそれに気付いて立ち上がった。
教室内は静かだった。
舞洲が椅子を引きずって立ち上がる音に、全員が振り返る。 そして彼女の視線の先に私が居る事に気付き、細波のような話し声が生まれた。
吉永も私に気付くと、嬉しそうな顔をした。 無視したが気にしてないようだ。
「舞洲」
来なさい、と手招きしたら、舞洲はあっさりと私の元へやって来た。 背を向けて歩き出すと、付いて来た。
「図書館行こう、五時間目サボれ」
「…………」
あそこなら、授業中生徒は来れないし静かだ。
「吉永は止めときな、意味が無い」
図書館の二階の日本文学のコーナーに入り、本を選びながら私は言った。 舞洲は本棚に並ぶ小説の背表紙を眺めて顔をしかめた。 本を読むのが苦手な人種なのだろう。
「あんたに関係ないじゃん」
「そう言うなら、ついて来なくても良かったじゃないの」
「…………あのさ」
振り返って見ると、先程まで勝ち気な雰囲気を放っていた舞洲が、肩を落として俯いている。 少し驚いた。
「あんた、滝本の事フッて正確だったよ。 アイツ、すげー嫌な奴」
「まだ付き合ってんの? そんな“すげー嫌な奴”と」
「いや、最近連絡取ってない」
何があったかは私には関係ないが。
「あんた、函南と付き合ってんの?」
「うん」
「――――優しい?」
「優しいよ」
「羨ましいね」
「有難う」
そうか、滝本は優しくなかったのか。 あまり彼は記憶に残っていない。 …………っていうか、“滝本”って名字で合ってるのかも、ちょっと思い出せない。
「前にあんたがイジメた二人は、転校したんだって?」
「うん」
「“やった!”って思った? 勝った気分になれた?」
。