君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
周りに沢山人が居て、味方に囲まれた場所でこれを訊いても、きっと本音は知れないだろう。 だが今は私と舞洲の二人しか居ない。 舞洲の味方も居なければ私の味方も居ない。
「――解んない、何を感じたか」
「これからも続けるの?」
「解んない」
疲弊しきっていた。
他人を攻撃する事で自分が攻撃されないようにする。 恐らく舞洲はずっと前から、それをしてきた。 何故ならば彼女は子供だった。 子供なりに世の中を上手く渡ろうと考えた結果が、イジメだった。
だが今、彼女はそれに疲れてきた。 何故ならば大人へ近付いているからだ。 自分が正しいと思ってしてきた行動に、自分が愚かさを見いだしてしまった。
「舞洲」
呼び掛けると、舞洲は足元に落としていた視線をゆっくりと上げた。 普通の、優しい女の子の表情だった。
「人をイジメて、追い詰めて、……目の前から消えたら新しいターゲットを探して…………。 それがあんたの人生? 大切な事?」
「…………」
「違うでしょ。 あんたはそんな子じゃないでしょ?」
感動を誘うような事を言ったつもりは無い。 だけど舞洲の双眸には見る見るうちに涙が溜まり、やがて一滴頬を流れた。
一滴はやがて新しく流れた涙に押し流され、顎の先から彼女の制服に落ちた。
「とにかく、イジメを続けたいなら止めない。 でも吉永は止めな」
「何でよ……。 っていうかイジメとかそういうのもう、――――どうでもいいよ」
「そっか。 何か本、読んでみる?」
「小説読めない」
「読んで損はしないよ。 とくに昔の文学は」
苦々しい顔で本棚に寄りかかる舞洲に、夏目漱石の一冊を渡してやる。
「漢字ばっかだし。 挿し絵も無いじゃん」
「大切な人が自殺するっていう結末なんだ、それ」
「自殺とか……。 超暗いんですけど」
「自分の過去に罪悪感を抱いた人が、最後に長ったらしい遺書を書いて死ぬの。 今のあんたにピッタリ。 あんたも将来過去に罪悪感抱きながら自殺するときの参考になるよ」
嫌味(我ながら酷すぎる嫌味だけど)を込めて言ってやると、「うん」妙な素直さで本の表紙を捲った。 そしてポツリ。
「死んでも意味無いよねー……」
妙に実感の隠った口調だった。
何、なんかあったの?と質問しようと私が口を開いた。 しかし声を発する前に、舞洲が答えを言った。
「うちの母さん自殺してんだよねー……。 薬たくさん飲んで手首切ってさ」
「…………うん」
「だからさ、あんたが教室で――――」
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