君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





「つぐみちゃん、久し振りなのに。 なんであたしじゃなくて、舞洲とおしゃべりなの?」


吉永は喋れる。
だけど、自分が気に入った人間としか口を利かない。 普段誰かに話し掛けても、困ったようにおどおどするのは、必要以上に人を近付けないための対策らしい。

そして私と同じく、他人に嫌がらせをされても全く動じない。 でも私とは違うタイプだと思う。


はっきりと言ってしまおう。
吉永はオカシイと思う。 病的だと。

ハッキリいってしまえば、吉永は異常なまでのナルシストだ。 多分何かの病気。




「あたしと同じ位顔が良くて、あたしと同じ位頭も良くて、あたしと同じ位特別な人としか話さない」らしい。 以前真顔でそう宣った。

その時、初めて他人を気持ち悪いと思った。 そんな理由で口を利かないなんて、どうかしてる。


「あたしと話す方が楽しいよ。 だってあたし達、特別だもんねっ」

「…………」


そのアホな台詞を聞かなかった事にして、さっさとこの場から消えたい。 何が「特別だもんねっ」だ。 特別オカシイのはお前だけだ。

舞洲の呆気に取られた顔が笑える。 でも吉永の前では笑いたくなかったので、我慢した。


「ねえねえ、今度一緒に遊ぼうよ」

「残念だけど、無理だね。 あんたとは仲良くしたくないから」

「素直じゃないなあ」


十分素直に答えたのだが。 物凄く都合の良い頭をしてらっしゃる。


舞洲なんかは全く視界に入れてない。 吉永はこちらに歩いて来ると、私の隣の席に座った。 私は椅子をずらして離れた。


「そういえばさ、何で函南くんなんかと付き合っちゃったの? 凡人への憐れみ?」


何を言ってるのかさっぱり解らない。 お前も(頭ん中の環境を覗けば)凡人だろうが。

クスクス笑いをしながら、吉永が尚も一人喋りを続ける。


「生きてる意味ないよ、あんな奴。 ボーっとしてて馬鹿みたいな顔してるもん、いつも」

「…………」

「あたしやつぐみちゃんに合う男なんて、世界に数える程しか居ないよ。
 滝本だっけ? アレは愚かさの極みだよね。 立場も弁えずにつぐみちゃんに近づくなんて、クソだよ」


一気に空気が悪くなる。
私と舞洲は、互いに顔を合わせてしかめ面をしあった。 吉永は一人喋りに夢中で、それに気づかない。 気付いたとしても、都合良く解釈するんだろうけど。


「増上慢もいいとこだよ。 あんな愚民、生きてるだけで罪なのに」

「…………吉永」

「ん? なあに、つぐみちゃん?」

「帰りなよ、教室に」


私がそう言ったことで、私達の顔付きが曇っている現状に気付いた吉永。 それでも尚自分を変えない。


「なんか怒ってる? ――――あ、コイツ?」

「お前だし」


意地の悪い顔で舞洲を指差すと、指された被害者は低い声で言い返す。 しかし自分が認めた相手としか会話をしない性分、吉永は無視して話を続けた。


「解る解る、一人でもクズが居ると腹立ってくるよね」

「………………確かにね」

「ちょっと!」


吉永に同意したような事を言った私に、舞洲が抗議の声を上げる。




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