君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





「あーあ、すごい雑音」


舞洲の声にわざとらしく顔を歪める吉永を睨み付け、私は大きな舌打ちをした。


「あんただよ」


私も流石に辛抱出来ない。 こいつと話す度に腹が立つのだ。 ずっとこの調子で私に付きまとうから。


「吉永、あんたが一番クズだよ」

「え…………?」

「そんなに自分が大事なら死にな。 死んで自分を“永遠”にすりゃいい」


見詰められるのも嫌だったので、素早く立ち上がってその場から早足で離れた。 「待って待って」舞洲も急いで着いて来た。


「あんなのと二人きりにしないでよっ」

「…………私が“止めとけ”って言った意味、解った?」

「死ぬほどよく解った。 なにあの気違い女、マジで怖いんだけど」

「同感」


吉永は着いて来ようとしたみたいだが、私と舞洲は階段を下りるフリをして彼女の視界から消え、足音を忍ばせてトイレに入った。 吉永はそこまで見えてない。

吉永が私達を探しながら(「つぐみちゃーん?」と呼び掛けながら)階段を下りていく足音をドア越しに聞いて、舞洲は安心したようにため息を吐いた。


「しばらくここに居よう、一応」

「うん」


吉永の強烈な毒気にやられたのか、私の心はズンと重くなっていた。 早く授業が終わって、函南くんが来てくれないかと思った。


「吉永には二度と近寄りたくない」

「解る。 っていうかアイツ、病院行った方が良さげじゃね?」

「無理だろ。 そもそも本人があれを自覚出来る状態じゃないし」

「狂ってるよ……」


人生を楽しむには、それなりに個性的な人間と接するのが良いだろうが、吉永は個性的過ぎてスパイスの度を越えてる。 っていうか毒薬。

あんなにイカレタ人間に懐かれるなんて、私は不運過ぎる気がする。










10分、結局トイレの中で無駄に過ごした。

再び日本文学のコーナーに戻ると、もう吉永の気配は無かった。

一安心して、先ほど座っていたテーブル席に着き、舞洲と適当な会話を続けた。 そういえば、知らぬ内に舞洲となんか仲良くなってる。 非常に良い事だが、以前までの事を思うと少し違和感があった。 簡単には慣れまい。


「ねえ、この漢字とか必要無くない?」

「昔は必要だったの」

「昔の人は頭良かったのね」

「あんたが頭悪いだけでしょ」

「黙れ」


しばらくして校舎のチャイムが鳴り、この日の授業を終えた函南くんが、鞄片手に二階へ上がって来た。 そして懇意に話をする私と舞洲を見て、宇宙人でも発見したように目を剥いた。


「何、この有り得ない光景」





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