君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を



その歌は正真正銘、その時その場所で生まれた、私だけの音楽だった。


「………………やったあ」


見つけたよ。 やっと見つけたよ、と、誰にでもなく呟いた。 自分に言ったのかも知れない。






夜中になるまでギターを滅茶苦茶に弾いてたら、少しずつ弾き方が解ってきた。
コードなのかどうかは知らないが、どこを押さえて弾けば望んだ音が出るのか、探していくのは楽しかった。


だが流石に弾き続けていると疲れてきて、お腹が鳴った。 急にパスタが食べたくなった。


少し肌寒いので上着を羽織り、外出して向かった先は、あの商店街。 前に一度だけ行ったことがある、24時間営業しているカフェ。 まだ営業しているのかは不安だったが、確かそこのメニューはレストラン並みに充実していた。 もうレストランでもいいじゃんって位。

殆どの店のシャッターが下りているなか、そのカフェの窓からは煌々と明かりが漏れていた。 それを見て安心した。 夜中に出歩いた甲斐があった。


「いらっしゃいませ」


ケイスケ・クワタ風のオジサンがカウンターの中に居て、店に入ってきた私にニッコリと笑った。 店内に客はほとんど居なく、奥の四人掛けのテーブルで白いシャツを着た男性が突っ伏して眠っているだけだった。

遠慮しながらカウンターに近付く私に、オジサンは「前に一回来たよね?」と言った。


「覚えてるんですか?」

「うん。 “うわー美人だー”って思ったから日記にシッカリと書き残してある」

「美人じゃないです」

「いいえあなたは美人です」


冗談だと思って否定したら、真顔で言い返してきた。 何だか怒られたような気がした。


「まあ座って座って。 お腹空いてない? なに食べる? ――――――――っていうか夜中の2時に女の子が一人で出歩くなんて、死にたいの?」

「死にたくないです。 何か、パスタが食べたいです」

「ミートソースとかどうよ」

「あ、それでお願いします。 あとお水。 めちゃめちゃ冷たいの」

「了解」


親しみやすいオジサンでホッとした。 大人の男性ときちんと会話したのもこの時が初めてだったかも知れない。


「で、今までどうしてた?」

「二年ぶりくらいですよね? 引きこもってました」


下手に嘘を吐くのは馬鹿らしかったので、正直に答えた。 それに、オジサンはそんなことで私を軽蔑したりしないだろうと思った。 この人は、きっと私が今まで出会った人の誰よりも優しい。


「へぇ、なら今日で引きこもりは卒業?」

「はい。 今日は昼にあそこの楽器店でギターを買ったんです」


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