君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
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所謂「病的な」表現を好んで歌詞に用いる。 だからといって僕自身が病んでいるわけではなく、…………まあ、正常というわけでもないのだが。
音楽好きの父親と音楽好きの母親の間に生まれ、ごく普通に育った。 しかし成長していく度に強くなる自我のせいか、年を重ねる毎に自分の表情が硬くなっていくのを感じていた。
もう昔のようには笑えないのだと思う。
両親からの影響で音楽を始め、それが仕事になった。
普通は最初、デビューしたばかりの時は「大物になれる」という所以の無い自信に満ち満ちている人ばかりなのだろう。
しかし僕は逆だった。
残念ながら、逆だった。
一年にとんでもない数のミュージシャンがデビューするわけで、自分達のバンドもその一つに過ぎないと解っていた。 きっと数ヶ月経てば自分らは下火になり、一年もすれば見捨てられるのだろうと悲観していた。
しかし皮肉なことに、テレビに沢山出て宣伝して、自信満々な事を曰っていた奴らがどんどん姿を消していく中、テレビにも出ず宣伝もろくにしない、しかもかなり消極的(他のメンバーは違ったかも知れないが)な僕達は、どういう訳か生き残って今に至る。
「俊太郎〜」
「うるさい。 キモい」
後ろから僕に抱き付いて、耳元で熱く囁いてくる鹿島修は、常に憂鬱と言っても過言ではない僕の音楽を、とても大事に演奏してくれるバンドのギタリストだ。 僕にとって一番の親友でもあり、最高の仲間でもあるが、耳朶に吐息を吹きかけられるのは我慢ならない。
「まあヒドい! 俺が全身全霊をかけて元気付けてやろうと思ったのに!」
「そんな全身全霊要らない!」
力ずくで引き剥がしてやった。
先刻、友人同士でもあるメンバーに、恵美と別れた事を告げたのだが、皆して残念そうな顔をした。
そしていきなり鹿島が抱き付いてきたわけだが、ここはファミレスであり、人目もあり、――――恥ずかしい。
何だって恵美と別れるのが残念なのか。 何が「元気付けてやる」だ。 気持ちは有り難いが十分元気だ。 憑き物が取れたわけだから。
「だって恵美ちゃん可愛かったから。 ――なあ?」
「俊太郎も顔には出さなくても喜んでんだと思ってたけど、違うの?」
ベースの大山和人、ドラムの藤川雪大が不思議そうな、それでいて非常に面白そうな顔をしている。 ちょっと腹立った。
「違うし。 ――――なんかウザかったもん、ずっと」
「このやろっ!」
たった一人、テンションがぶち上がっている鹿島に、平手で後ろ頭を叩かれた。
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