君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
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「メリークリスマス。 さあプレゼントを寄越せ」
「…………。 ――――メリークリスマス」
あー、これだ、と思った。
昨日会った相楽俊太郎が誰と似てるって、間違いなくこの人じゃん、と店にやって来た草野さんを見て思った。
店の一階はピアノやフルート等、オーケストラで使う出来うる限りの楽器が並んでいる。 草野さんは僕に気付くまで、バイオリンの入ったガラスケースを眺めていた。
今日の彼女は、焦げ茶のジャンパーを着ていた。 そのジャンパーのサイズが彼女の身体には少々大きいようで、ぱっと見ジャンパーの下からは、黒の柄付きタイツに包まれた細いながらも肉付きの良い両脚が伸びてるだけにしか見えない。
だがジャンパーのチャックを下ろすと、その下から白のセーターと赤のチェックのミニスカートが現れた。
因みにタイツの柄だが、太もも辺りに靴下の縁を模したようなラインがあり、その上に一本の縦線が上り、大きなリボンの模様が一つ付いてる。 太もものラインの下は細いストライプが並んでいる。 ガーターベルト付きのニーハイソックスみたいな模様だ。 ちょっとドキマギした。
「何? どうしたの?」
「何でもない。 その格好かわ…………っ。 ――――うん」
「“かわ”? “かわ”?」
“可愛い”と言いそうになったが、どうも照れ臭くて中断。 それをようく理解しているであろうその可愛い人は、面白がって聞き返してきた。
ニヤニヤ笑いを我慢しながら、彼女の両頬を両手で挟んで押し付ける。 顔面を物理的に潰されながらもまだ可愛らしさを保っている唇が、「ぶーっ」と怒ったような声を発する。
「にゃにしゅるんだよー」
プニプニ柔らかい頬から、振動が伝わる。 彼女を抱き締めたい衝動に駆られたが、そういうのは後でも出来る。 我慢した。
「ほらこれ。 クリスマスプレゼント」
と、差し出された紙袋を受け取り、ワクワクしながら開けてみた。
「――妹ちゃんへの」
大きな熊のあみぐるみだった。
僕のじゃないんか! 内心叫んだ。
「どうした? どんな顔したらいいのか解らない?」
「それもそうだけどさ…………」
「私の手作りなんだよ。 妹ちゃんがこの子が壊しても、……代わりはいるから。 何たって三人目よ」
それを言うなら“三体目”だろ。
「っていうかセリフ、網羅しすぎだろ」
「それが解る君もね」
「いや、だって親父がDVD全巻揃えてるもん。 それにしょっちゅう見るし。 劇場版もシッカリあるし」
「ところで、本当にプレゼントはそれだけ?」
「それだけよ? 悪い?」
何で妹にはプレゼントして僕には無いんだ。 かなり不満に思った。 僕はきちんと用意してるのに。
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