君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
僕が用意したプレゼントは、パソコンに作った曲やそのアレンジを打ち込んで…………っていうか、平たく言うと音楽制作ソフトだ。 先日、丁度店に仕入れたばかりのそれを、父親から値切りに値切って購入した。 息子にぐらい、最初から気前よく格安で売って欲しいものだ。 やっと買える値段まで、一時間の交渉時間を要した。 ケチ親父。
読書家の彼女の事なので、本をプレゼントしようかとも思った。 だが恐らく、僕が思い付く程度の小説は、草野さんは既に読んでいるだろうからやめた。
部屋でそのプレゼントを自分のショルダーバッグに入れ、店の外で待ってる草野さんの元へ行った。
厚手のジャケットを羽織った僕を見て、彼女は「寒そうだねえ」顔をしかめた。 「マフラーとか無いの?」
「そういえば持ってないや。 小学生の頃にガキ臭い柄のマフラーしてたくらい」
「どんなの?」
「でっかい雪だるまが手を繋いで沢山並んでる柄」
僕が答えると、彼女は苦笑して「見てみたいなあ」と言いながら、肩に掛けたバッグから、白と紺のボーダー柄のマフラーを取り出した。
「寒くないようにしっかり巻いてね。 欲しいならあげるよ」
「あ、…………うん」
素直に“プレゼントだよ”って言えばいいのに。 そう思ったが、頬をピンクに染めた彼女の笑顔を見て、単純にそれが嬉しかった。
「手編み?」
「手編みだよ。 自分のマフラーを編んだついでに」
「本当についで?」
「……ついでですとも」
「素直じゃないなあ」
恥ずかしそうに笑う草野さんの左手を、自分の右手で掴んで、歩き出した。 冬の空気で冷えた指先が、やんわりと僕の手を握り返す。 その僅かな感触を感じながら、口元を緩めた。
あ、そういえば、と僕は頭に浮かんだ話題を言ってみた。
「昨日さ、相楽俊太郎が店に来たよ」
「…………」
草野さんが好きなバンドのボーカルなので、大層喜ぶだろうと思って言ったのだが、返ってきたのは沈黙だった。
「ビックリしたよ。 でさ、いきなり“ギター下手だね”って言われた」
「そっか……」
「“普通の域を出ない”だって」
「…………」
どういう訳か、彼女はいきなり寡黙になった。 能面然とした面持ちで、真っ直ぐに前を見たままだ。
どうしたのと問い掛けても、ただ頷くだけ。 顔を覗き込むと、切れていたスイッチがパチリと入ったように、彼女の顔に表情が戻った。
「パイ包みのスープが食べたい!」
「何?」
「いや、今日は何を食べようかと思ってたの」
「それでぼーっとしてた?」
「うん。 ごめんね」
微笑んで、彼女は手をキュッと握ってきたが、そんなのじゃ僕の疑念は消えなかった。 今日の夕食を考えて口数が少なくなるような、そんなに簡単な人じゃないはずだ。
不思議だったが訊かなかった。 道理は無くとも「訊くな」と直感が命令している。
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