君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
店の前に白いスーツでステッキを持ったメガネのアメリカ人人形が置かれてるファーストフード店で食事した。 その時にプレゼントの音楽ソフトを渡すと、受け取った彼女は椅子の上で嬉しそうに体を揺らした。 「えへへへー」と小さく笑いながらそれを脇に置いて、目の前のテーブルにあるパイ包みのスープを自分の方へ引き寄せた。
パイ生地のど真ん中にスプーンを突き立てて、中のスープを掬い上げて自分の口元へ持ち上げた。
「うおーっ」
何をどうしたのか、そのスープがプレゼントのラッピングの上に飛び散った。
「仕舞ってから食えよ」
笑いながら言ったら、草野さんは申し訳なさそうにそれをバッグに入れた。
「……ごめん」
「いいよ。 そんなので壊れたら不良品だろ」
「だよね……。 ――――今日、着替え持ってきた?」
「…………うん」
前々から、クリスマスは草野さんの家に泊まる約束をしていた。 少し緊張してる。 彼女と夜を過ごしたあの日以来、彼女の家に行った事は何回かあるが、泊まるのは初めてだからだ。 二人してそんなに話題にはしないが、“泊まる”の意味する所は解っていた。
「もしかして、アレ持ってきた?」
“アレ”の意味する所も解っているのだが。
僕が頷くと、草野さんは口に含んだスープを吹き出すのを我慢するように手で押さえた。 そしてスープを飲み込むと、小声で「私も昨日買っちゃったんだけど!」。
「……まじで言ってる?」
「まじ。 薬局でナプキンの隣に並んでたから、思わずナプキンと一緒に掴んだの。 男の店員さんが私を見て何故かビックリしてた」
サラリと詳細を白状してみせた彼女に、今度は僕が吹き出しそうになった。 平然とした表情で、レジに生理用品と避妊具を置く草野さんの姿が容易に想像出来る。 その店員は、彼女が堂々とそれを持って来た事に驚いたのだ。
「そりゃ驚くよ」
「やっぱり?」
二人でクスクス笑いながら、僕らは下らない会話をそこで一時間程した。
やがてデザートも食べ終え、僕が食べ殻を捨てに行って戻ると、草野さんは自分のコートを着ているところだった。
「もう出よう、私の家に行こうよ」
僕にコートを渡しながら、小声で「居心地悪いしさ」と、口を歪める。
確かに、僕も少々気掛かりだ。
通路を挟んで向かい側にある四人掛けのテーブルに座っている三人組の男達が、彼女がコートを着ている様を眺めている。 揃って粘着質で、溶けかけた飴玉のような目をしている。 僕の胃袋の底がチリチリ熱くなった。
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