君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を















店の前に白いスーツでステッキを持ったメガネのアメリカ人人形が置かれてるファーストフード店で食事した。 その時にプレゼントの音楽ソフトを渡すと、受け取った彼女は椅子の上で嬉しそうに体を揺らした。 「えへへへー」と小さく笑いながらそれを脇に置いて、目の前のテーブルにあるパイ包みのスープを自分の方へ引き寄せた。


パイ生地のど真ん中にスプーンを突き立てて、中のスープを掬い上げて自分の口元へ持ち上げた。


「うおーっ」


何をどうしたのか、そのスープがプレゼントのラッピングの上に飛び散った。


「仕舞ってから食えよ」


笑いながら言ったら、草野さんは申し訳なさそうにそれをバッグに入れた。


「……ごめん」

「いいよ。 そんなので壊れたら不良品だろ」

「だよね……。 ――――今日、着替え持ってきた?」

「…………うん」


前々から、クリスマスは草野さんの家に泊まる約束をしていた。 少し緊張してる。 彼女と夜を過ごしたあの日以来、彼女の家に行った事は何回かあるが、泊まるのは初めてだからだ。 二人してそんなに話題にはしないが、“泊まる”の意味する所は解っていた。


「もしかして、アレ持ってきた?」


“アレ”の意味する所も解っているのだが。
僕が頷くと、草野さんは口に含んだスープを吹き出すのを我慢するように手で押さえた。 そしてスープを飲み込むと、小声で「私も昨日買っちゃったんだけど!」。


「……まじで言ってる?」

「まじ。 薬局でナプキンの隣に並んでたから、思わずナプキンと一緒に掴んだの。 男の店員さんが私を見て何故かビックリしてた」


サラリと詳細を白状してみせた彼女に、今度は僕が吹き出しそうになった。 平然とした表情で、レジに生理用品と避妊具を置く草野さんの姿が容易に想像出来る。 その店員は、彼女が堂々とそれを持って来た事に驚いたのだ。



「そりゃ驚くよ」

「やっぱり?」


二人でクスクス笑いながら、僕らは下らない会話をそこで一時間程した。
やがてデザートも食べ終え、僕が食べ殻を捨てに行って戻ると、草野さんは自分のコートを着ているところだった。


「もう出よう、私の家に行こうよ」


僕にコートを渡しながら、小声で「居心地悪いしさ」と、口を歪める。

確かに、僕も少々気掛かりだ。


通路を挟んで向かい側にある四人掛けのテーブルに座っている三人組の男達が、彼女がコートを着ている様を眺めている。 揃って粘着質で、溶けかけた飴玉のような目をしている。 僕の胃袋の底がチリチリ熱くなった。




< 80 / 114 >

この作品をシェア

pagetop