君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





そんな僕に気づいたのか、


「妬いてる?」


図星過ぎて返す言葉も無い。

黙り込んだ僕をからかうように鼻で笑い、彼女は早足で店の出口に向かって行ってしまった。 取り残された僕を見て、「弟?」三人組の一人が呟いた。


粘っこい視線を送る対象である彼女が消えた今、半ば必然的に三人組の目は僕に向けられた。 その馬鹿にするような目つきが腹立たしい。

真っ先に目が合った男が、見下すように唇を歪めて笑った。 ムッとした僕は、そいつを睨み付けた。


「彼女とはセックスしてる仲ですが、何か?」


不思議と声は震えてなかった。 というかコイツらなんか、全然怖くない。 草野さんより、ずっとずっと怖くない。

でも、今の台詞は我ながら馬鹿だと思った。



出入口でそれを見ていた草野さんが、小走りで僕の横まで来ると、腕を取って怒ったように


「こら函南くん、喧嘩しちゃだめだよ」


苺みたいに赤い唇を窄めて言った「つまんない事で張り合わないの!」。
「だって、俺のこと“弟”って」言い訳する僕の言葉を聞いた彼女が、三人組を見やった。 揃って座り直した三人組を、僕は胸中で嘲った。


「私、不躾に人をジロジロ見てくる奴って大嫌いです。 ――――死んじゃえばいいの」


なんとも無邪気な様子で、有無を言わさぬ笑顔で、――――しかし声色は氷のように冷たく、そう言い放った。 言われた三人組の顔が一気に強張る。 彼等の虚栄心やらプライドやらが崩れ落ちる音が、僕の耳にも聞こえてきそうだ。

「はやく行こう」と腕を引っ張る草野さんと一緒に、出入口から外に出た。


「本当にああいう目付きって、嫌い。 フォークで抉り出してやりたくなる」

「気持ちは解るけど、実際にはやらないでね」






僕らが居たファーストフード店は、商店街から少し離れた場所にあった。 外はやっぱり雪が降っていた。
互いの手を暖めるために、もしくは体の一部だけでも密着していたいがために、どちらからともなく手を繋いだ。

夜色を背景に薄く掛かった雲を見上げると、微かな星の光が網膜に映った。 吐き出した吐息が、白く宙に昇る。


「寒いねえ」

「このマフラー、あったかいよ。 作ってくれて有難う」

「照れちゃうなあ」


冗談の風ではなく、どうやら本気ではにかんでる様子で唇を噛みながら、「んふふー」と体をぶつけてきた。


その時、今日ずっと僕の中でくすぶっていた衝動が弾けたのを感じた。 彼女がぶつけてきた肩を掴むと、僕の方へ引き寄せて抱き締めた。 夜半近くなった歩道の真ん中で、僕らは抱き合った。

街灯の光で出来た僕らの影が視界の隅に入る。 草野さんの影が僕の影にすっぽりと入っているが、その細い脚だけが僅かにはみ出している。 そのシルエットが蠱惑的だった。


どうも、若さという物の力が顕著に出てる気がしてならない。 恋に踊らされているとは、よく解っているつもりなのだが。




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