君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





「嘘じゃないんだよ、本当だよ、本当なの…君が好きなんだよ………」


今頃気付いた事がある。
草野さんは僕と同い年の18歳で、僕と同じで、まだ子供という事。
僕より大人びて見えても、まだ愛情を受けなきゃ生きられない時期なのだ。 親や友達、恋人。


今まで長い間、彼女にはそれが無かった。

誰にも馬鹿にされないように、下手な同情されないように、弱みに漬け込んで騙されないように、強くなろうとして感情をロボットのように押し込めていた。
けど草野さんだってちゃんとした人間だ。 本当は孤独が怖いんだ。 押し潰されそうなんだ。


それなのに、僕は何だ。
解って欲しい、愛して欲しいと思ってた。 僕は草野さんの一番になりたかった。 なのに彼女の虚ろに気付いたからって、全て知った気になった。 どうしようもなく馬鹿野郎なのだ。

僕は草野さんの所有物ではないし、草野さんだって僕の所有物じゃない。
勘違いしていたし、あまりにも増上慢だった。


「函南くん…………? 怒ってるの?
 ―――ほ、本当にごめんなさい!」


彼女は僕を受け入れてくれた。


「怒ってないよ」


僕は何をした?
草野さんに何をした?

自分の楽しみばかりを考えていたが、彼女がそれを楽しいと感じるかは考えなかった。 セックスだってそうだ。 まだ一度しかしてないけど。

あの時は自分がしたいままに、草野さんの白く細い身体を貪った。 白状すると、一瞬だけ「ぶっ壊してやりたい」とも思った。 壊して、閉じ込めておきたいと。 そして僕が好きな時に顔を見て、抱きたいと。


彼女の笑顔が見たいと考えて、そう考える自分が大人になった気がして、気分が良かったのだ。


「僕は草野さんと一緒に居るよ」


腹を決めた。
僕の世界の中心に彼女を置く。 今までのように見返りや独り善がりは無しにして。

草野さんが来てと言ったら、百キロ離れた場所に居ても飛んでいく。 しろと言うならば後方宙返りもするし、外国の言葉も完璧にマスターしてみせる。


これまでずっと彼女を好きだったが、浮ついていた。

今は、地面にきちんと両足が着いている。 生まれて初めて本気で覚悟を決めた、ある種の達成感と、これから先の事を憂う気持ちが混在している。


「草野さんが僕を心の底から嫌になって、“今すぐ消えて”って言うまで、ずっと一緒にいる」

「言わないよ」

「言うかもよ?」


僕より好きな人と、結ばれたいと強く望む時が、来るかもしれない。 これから先何が怒るか解らない。



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