君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





いつも以上に生気が無い僕が心配なのか、彼は半分以下のおにぎりを差し出し、「食うか?」いや、もう中のツナマヨほとんど無いし。 食べさしとか要らんし。


「どうしたよ俊太郎。 今日は俺んちで夜通しゲームでもするか?」

「んー……」


ゲームは好きな方だ。 その誘いは魅力的ではある。


「この前買ったって言ってたやつ、一人で全クリしていいなら」

「できるのかよ? 俺が1ヶ月かけてもまだクリア出来てないのに」


それはお前が下手なだけだろ。
僕は「やっぱ行かない」と答え、ソファー脇のパイプ椅子に置いた自分のカバンを手にした。

この日録音する分は全て録った。 何時もは音を自分らで確認したりするのだが、今日はもう帰りたかった。


「体調悪いんで帰っていいすか」


スタッフらに呼び掛けると、数人振り返り「確かに顔色悪いから帰って寝ろ」と言われた。 別に体調は悪くないので、顔色悪いと言われたのは少し心外。

しかし帰り際に出入り口の横の鏡で見てみたら、確かに自分の顔は何だか青白かった。 まあ、普段から不眠症気味だからかもしれない。


あと5日で年末だからか、街中は既に「おせち料理」や「年末セール」などの文字に溢れていた。 つい昨日までクリスマス一色だったのに。


道の反対側から歩いて来て、僕とすれ違っていく人々を横目で逐一確認しながら駅へと足を運んでいく。
疲れた顔したサラリーマン。 買い物袋を片手に歩くおばさん。 ――――腕を組んで歩くカップルには少しむかついた。


昨日見た光景がまた鮮明に浮かんでくる。 ギターケースを持った手に力が入った。

そのまま地面にぶつけて、ぐしゃぐしゃに踏みつけてしまいたかった。 なんでこんなもの持ってるんだろう。



こんなに人を想って焦がれた事は無い。 生まれて初めてなのに、なんでその相手は既に誰かの物なのだろう。 なんで僕は泣きそうなんだろう。


彼女が好きだ。

一緒に過ごしたい。 それだけでいい。 キスやセックスは無くても構わない。 わがままは言わないから、どうか僕の隣に居て欲しい。 君が居ないと、僕は死ぬまで満足に眠れない。




『昨日はクリスマスでしたね、草野さん』

『そうですねー街が華やかでした』

『先日、娘さんや奥さんと過ごすと言ってらっしゃいましたが、どうでしたか?』



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