君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





ビルの一面にある、大きなテレビモニターに映し出された番組から、アナウンサーとコメンテーターの会話が聞こえてくる。


『うちの家内は仕事でしたねー。 でも娘のつぐみと一緒に、家内が帰ってくるまで起きて待ってました』

『あら、素敵ですねぇ』

『つぐみは“ケーキ早く食べたい”って、ソワソワしてましたよ』


顔を上げてそれを見た。

アナウンサーと笑う中年の学者先生の前のテーブルに、“草野芳彦”というネームプレートがある。 僕はそんな事よりもその人が言った“つぐみ”のフレーズに引っ掛かった。 彼女と同じ名前だったからだ。


「…………」


まさかと思った所で我に返る。
そんな事は有り得ない。
ただの偶然で、名前が同じなだけだ。

彼女の事を考え過ぎて、どんな物事にも彼女を繋げてしまうだけだ、これは。


軽く溜め息を吐いて、上に向けたままの視線を戻そうとした。


『いやー、本当に仲の良いご家族ですね』

『あはは、有難うございます』


しかし草野芳彦の顔が大写しになった。

顔立ちはかなり整っていた。 中年だが女性からモテそうだ。 いけ好かない。

目元もやたら小綺麗で、それでいて、―――見覚えがあった。


少し太めの眉に、切れ長で大きめの双眸。 瞳が真っ黒で、横目でアナウンサーを見る瞬間のそれには記憶を刺激された。

以前、あんな目で見られた。 いや、睨まれた。


直感が「二人は親子だ」と言っている。
そしてこの、草野芳彦が嘘を吐いてるとも。












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