君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を




ギターを構え、試すように弦を弾いたあと、オジサンは「禁じられた遊び」を弾き始めた。 大昔に何かの映画で流れていた曲らしいが、私はそれを知らない。 単に「弾けたらなんかカッコイイ曲」という認識。


一通り弾き終えると、オジサンはアッサリとギターを返してくれた。 もっと弾いて欲しかった。


「チューニングはどうやってる?」

「音叉でやってます。 それ以外はしたことありませんけど、ダメですかね?」

「いや、かなり正確に音合わせてあるよ。 ストラップはあるの?」

「ストラップ? ギターって携帯に下げられるんですか? すごいですね」


本気で訊いたのだが、どうやら違うらしい。 オジサンは手を叩いて笑った。


「違う違う。 立ってギターを弾く時に使う、ベルトっぽいやつのこと」

「ああ、あれストラップて言うんですか。 無いです」

「じゃあ俺のやるよ。 ギターは人にあげたから、ストラップだけ残ってんだ。 使ってくれる?」

「はい、ください。 タダで貰えるなら遠慮はしません」

「よし、じゃあ取ってくるから。 さっきの俺が弾いた曲、弾いてみな」


と、言い残してカウンターの奥に入って行った。 言われた通りギターを構え、先程聴いたばかりの「禁じられた遊び」を思い出しながら弦を爪弾いた。 意外と簡単に弾けた。


「なんだそれ。 アッサリ弾きやがってよー。 なんか悔しいよーこのやろー」


戻ってきたオジサンは言葉通り悔しそうな顔をしていた。 右手には革製のストラップが握られていた。 「付け方、解る?」


「このでっぱりに付けるんですよね?」

「“でっぱり”………“でっぱり”てアンタ。 確かに出っ張ってるけども。 それはストラップ・ピンていうのだよ」

「なるほどー。 弾くこと以外なんの興味もなかったから知らなかったです」


私のあまりのダメっぷりに苦笑しながらも、オジサンは向かい側に座ってギターにストラップを取り付けてくれた。 やがて取り付けたストラップを私の肩に掛け、立ってごらんと促した。

立ち上がると、肩からストラップでぶら下がるギターが腹の位置に落ち着いた。 長さを少し調整して、丁度良い高さにした。


「ほら、なんか弾いて。 作った曲とか歌ってよ」

「―――なんだと!?」

「え、ダメなの?」

「いや、歌が下手かも知れないから」

「それは歌ってみないと解らないよ」


ほら歌え、と目をキラキラさせているオジサンに根負けして、私は昨日完成したばかりの曲を歌い出した。



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